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名店の銘菓は食べ尽くした、というあんこ好きへ。"じゃない方"のあんこ菓子対談

名店の銘菓は食べ尽くした、というあんこ好きへ。銘菓に隠れたもう一つの名作あんこ菓子をお届けする企画。 全国津々浦々の和菓子店を食べ歩いてきた3人の強者が、蓄積した膨大なあんこ菓子データを駆使して選びました。

Illustration: Adrian Hogan / Text: Yuko Saito

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あそこの店、どら焼きが有名だけど、実は草餅が絶品なんだよ!なんて、店に足繁く通ってなきゃ辿り着けない境地。ハードルの高さに頭を抱えつつ、あんこ界の強者たちの“じゃない方”選び、スタートです。

渡辺P紀子

この企画、すごく難しい。なにしろ、この店のコレと決めたら、ほかのものには目もくれずというタイプでして。今日はお二方のご高説を賜りに参りました(笑)。

畑主税

そもそも、看板のどら焼きがおいしいからといって、豆大福やきんつばもおいしいとは限らないのが、難しいところ。

お菓子によってそれぞれあんこの具合を変えるお店もあれば、そうではないお店もありますし、あんこと一口に申しましてもなかなか興味深いものです。

日高むつみ

たしかに、どら焼きはおいしいのに、一緒に買った薯蕷(じょうよ)饅頭は残念と思った店はありました。

だから、“じゃない方”もおいしいお菓子があるお店は、すごく手間をかけていらっしゃると思います。

渡辺

なるほど。これ、素晴らしい企画じゃないですか!

Adrian Hogan イラスト
代表銘菓も"じゃない方"もおいしいところは名店です。

ひとえにつぶあんといっても、どら焼き、大福、きんつばでは、皆、違う。看板菓子のどら焼きがおいしくても、大福もそうとは限らない。逆にどっちもおいしければ、あんこを使い分けている証拠。いい店だ。

日高

どら焼きといえば、東京・浅草〈亀十〉が有名。ただ、競争率が高いので、私は松風をよく買います。

どら焼きとはまた違う、黒糖風味のフワフワ生地が好みで、あんこのちょびっと感も程よい。

渡辺

残念ながら、看板があんこが入らないみち乃くせんべいなのですが、宮城・仙台の上生菓子店〈賣茶翁〉のどら焼きも素晴らしいです。

同じ手焼きでも、〈亀十〉は、一つ一つ微妙に表情が違う素朴さが魅力ですが、〈賣茶翁〉は一糸乱れぬというか……。

渡辺

焼き色が強くて美しく、品格を感じます。あと、東京・向島〈志゛満ん草餅〉の、栗きんとんどら焼はどうかしら?

栗きんとんどら焼って聞いたら、ふつう、栗と小豆のあんこが入っていると思いますよね。

渡辺

ところが、青エンドウの餡と、バタークリームが入っている。草餅との乖離(かいり)を感じさせて、ちょっと面白い。

こういう、中に予想外のものが入っていた時のサプライズ感って、和菓子ならではの喜びなんですよ。

渡辺

向島でもう一軒、〈言問団子〉の、都鳥の形をした言問最中もいいですよ。本当に形が愛らしい。

あんこが2種類あって、注文してから挟んでくれるんですよね。

日高

やはり、お団子が看板の東京・日暮里〈羽二重団子〉の、しづくあんは、どうですか。

畑&渡辺

あ~、わかります!

日高

最初は羽二重団子しか目に入らなかったんですが、ふと、雫形に目がいって買ってみたら、あんこがすごく軟らかく、口溶けが良い。

箱に並んでいる景色もいいので、差し上げると、とても喜ばれます。

日高

手みやげにいいなぁと思う団子を、もう一つ、東京・目白〈志むら〉の日吉団子。

これはかわいいですよね。

日高

九十九餅や福餅が看板だと思うんですが、草餅生地の小さなお団子とそこにのったあんこのバランスが良く、上品な感じでいただけます。

ふつう、団子のあんこって、上にぺっとりと塗るか、全部覆ってしまうかなんですが、ここは独特で、三角のお山みたいにのせてあります。

渡辺

手をかけているのが、よくわかります。

きんつばで有名な東京・浅草〈徳太樓〉には、お彼岸の中日にしか作らない、つまり年に2日しか買えない草団子があって。ヨモギの団子がこしあんの海に埋もれていて、最高なんですよ。

渡辺

私はきんつば一筋だったので、知りませんでした。

日高

神奈川・鎌倉〈力餅家〉は、つきたてのお餅に、それこそあんこをぺったりと塗った権五郎力餅が看板なんですが、福面まんじゅうも、焼きたてを食べると格別ですよ。

Adrian Hogan イラスト
季節や行事にちなんだあんこ菓子は、手に取ろう。

桜の頃なら桜餅、秋なら栗蒸し羊羹や栗饅頭、端午の節句には柏餅。季節や年中行事と密接に関係しているのが、和菓子の特徴。どこの店も力を注ぐ、大切なアイテムなので、“じゃない方”に出会える確率は高い。

〝じゃない方〟を選ぶなら、黄身しぐれがイチオシ!

渡辺

私は黄身あんが大好きなので、看板でなくても、黄身しぐれは必ず買います。水羊羹や栗蒸し羊羹など、季節ものが有名な東京・渋谷〈岬屋〉の黄味時雨はおいしいです。

日高

私も、黄身しぐれ系は、大好き。文銭最中が看板の東京・新橋〈文銭堂本舗〉に行くと、君牡丹を、必ず買って帰ります。

一口に黄身しぐれと言っても、お店によってキャラが違っていて、白あんと黄身あんを合わせている〈岬屋〉などは白っぽくて、卵黄の量が半端なく多い〈文銭堂本舗〉のものは、すごく鮮やかな黄色でとてもしっとりしている。

さらに、蒸した、ふわっとしたタイプもあります。

渡辺

どれも好きです!

黄身しぐれって、まだまだそのおいしさが理解されてないから、推していただくと嬉しいです。ちなみに〈文銭堂本舗〉は、道明寺粉を使った大福、大粒餅もおいしいですよ。

日高

最中で面白いと思ったのは、大福が人気の東京・神楽坂〈梅花亭〉が作る鮎の天ぷら最中。天ぷらとありますが、揚げ最中で。

アユの形をしているんですよね。東京・駒込〈中里〉にも揚最中がありますが、同じくアユの形をした最中皮を揚げてからあんこを挟んでいまして、これがクセになる味わいで。

日高

麦代餅(むぎてもち)が看板の京都〈中村軒〉のしそ餅は、こしあん入りの道明寺をシソ葉で包んだもの。意外なおいしさに開眼しました。

実は、シソを使ったお菓子は結構あって、茨城・水戸には、赤ジソの葉を巻いた求肥餅、水戸の梅がありますし、青森にも、干梅という赤ジソを巻いた餅菓子がある。

渡辺

ちょっと塩味が入った“サレ”な感じが、おいしいんですよね。

青森で思い出しました!昆布羊羹が看板の〈甘精堂本店〉が作る明日成は、最近よく手みやげにしています。

リンゴやレーズン、マーマレードまでもが混ざった白あんをカステラで挟んで、上を羊羹生地でコーティングしているという!

渡辺

見た目もとてもきれい。

もう一つ、シャリついた小城羊羹が看板の、佐賀・小城〈村岡総本舗〉。
ここは近年、いろいろな新作を出してらして、中でも衝撃を受けたのがカシューナッツ羊羹! 

渡辺

フルーツを入れた羊羹は、最近増えている気がしますが……。

栗蒸し羊羹もそうですが、栗がゴロゴロ入っていて、その間をあんこが縫うタイプもあれば、あんこ中心で栗がポツポツのったもの、どちらもバランスよく入ったものがあって、それぞれに良さがある。

これは、ゴロゴロ系。パウダーが練り込まれているかと思いきや、丸ごとがすさまじい量入っていて、口の中がこんなにカリコリした羊羹は初めて!

日高

東京・浅草〈龍昇亭 西むら〉の看板の栗むし羊かんは、まさにゴロゴロタイプですよね。羊羹の上に栗の蜜煮がびっしりで。

ここの、たっぷりのこしあんを程よいボリュームの桃山生地で包んだ桃山金龍もおすすめの、“じゃない方”。

渡辺

秋なら、やっぱり栗のお菓子を買ってしまうし、夏は水羊羹だし……。和菓子は季節がすごく大事だから、看板ともう一品買うとしら、やはり季節物を選びます。

Adrian Hogan イラスト
店を訪ねたら、貼り紙、レジ横もチェックすべし!

看板菓子を手にしたら、会計する前にくまなく店内を見渡してみよう。見落としそうなところに、ひっそりと“じゃない方のあんこ菓子”が並んでいたり、貼り紙に推しメニューのヒントが隠れていることもあり。

定番や新作の中から、“じゃない方”を見つけるのは、これはベテラン刑事の勘みたいなもので(笑)。

日高

私は、結構、お店に貼ってある短冊を参考にしています。

あ、貼り紙は大事。全国の和菓子店を巡っていると、それこそ看板商品がなにかもわからない店が、まだまだある。そういう時は貼り紙を見て、それを探して。

で、お勘定をしていると、その横に伝統銘菓がひっそりいたりして、また買い足して(笑)。おいしい“じゃない方”を探す旅に、終わりはありませんね。

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