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ライター・室橋裕和が選ぶ、現代を生き抜くためのブックガイド。キーワード:「いざ、出稼ぎへ」

変化のスピードが速い、時代の転換点に立つ私たちは今、どんな本を読めばいいんだろう。物価・賃金が上昇する各国の状況に比べて、日本経済の停滞ときたら。外国で働く方がいい気さえする。渡航制限も緩和され始めた今、まずは読んで学ぶ。

illustration: Ayumi Takahashi / text: Ryota Mukai / edit: Emi Fukushima

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外国でもなんとか働いていける。勇気をもらえる読書体験を

『移住者たちのリアルな声でつくった 海外暮らし最強ナビ【ヨーロッパ編】』久保田由希、山田静/編、『語学の天才まで1億光年』高野秀行/著、『だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人』水谷竹秀/著
左から時計回りに
(1)『移住者たちのリアルな声でつくった海外暮らし最強ナビ【ヨーロッパ編】』久保田由希、山田静/編
定住、留学、ワーキングホリデー、ビザなしの短期間滞在と、多様な暮らし方とその方法を、移住した日本人が教える一冊。全8ヵ国。アジア編の編集は室橋さん。辰巳出版/1,870円。

(2)『語学の天才まで1億光年』高野秀行/著

コンゴ、アマゾンをはじめとする辺境地のノンフィクションを発表してきた著者による、1985年から96年に至るまでの言語体験記。学んできた25超の言語から11を紹介。自作の地図や図版、ノートも多数掲載。集英社インターナショナル/1,870円。

(3)『だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人』水谷竹秀/著

ノンフィクションライターの著者が、バンコクのコールセンターで働く40人ほどの日本人を約5年取材。ステップアップしたり貧困に陥ったりと実際の暮らしぶりも。集英社文庫/715円。

格安航空券があり、ネットで簡単に情報が手に入れられる現代は、外国に行くハードルが限りなく下がった時代。海外で働く日本人の歴史は長いけれど、特に最近は、不景気の上に円安が進むなど経済への不安から、より賃金が高い国で仕事をする人も注目されていますね。今や約134万人、100人に1人の日本人が世界のどこかで働いています。かくいう私もかつて10年ほどタイで暮らしました。

きっかけの一つは、海外への憧れ。『サイゴンのいちばん長い日』や『深夜特急』の印象が心に残っていたんです。情報はネットで集められるけれど、憧れや勇気をもらえるのはじっくり楽しめる読書ですね。

もちろん、海外で暮らすために必要不可欠な情報は少なくありません。ビザの取得、仕事探しに家探し、口座作り、医療体制……などなど。これらを網羅的に、かつ現地に暮らす日本人の実感とともに教えてくれるのが『移住者たちのリアルな声でつくった海外暮らし最強ナビ【ヨーロッパ編】』(1)。2021年夏、コロナ禍にもかかわらず刊行されたものなので、今でも十分参考になる。同じシリーズにはアジア編も。

そして、これまた欠かせないのが現地語の習得。どうにも語学が苦手な人におすすめなのが『語学の天才まで1億光年』(2)。世界各地を巡ってきたノンフィクション作家・高野秀行さんの語学体験記です。コンゴのリンガラ語のような私たちが名前さえ知らない言葉も学んできた高野さんによれば、語学は勉強ではなく、スポーツや音楽に近い。ある種のセンスと反復こそが大切だと。このたくましさに触れればなんとかなると思えてきます。

『だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人』(3)はタイにある日系企業のコールセンターで働く日本人を取材したもの。彼らは借金や差別を苦に日本を離れ、“居場所”を求めて移動しました。海外に行く理由は、必ずしも憧れや稼ぎが第一ではないんです。彼らの口からは日本で暮らす息苦しさが語られる半面、バンコクの過ごしやすい空気感が感じられる。

私がこの地の日系企業に勤めていた頃、決まって定時退社だったり、同僚がオフィスに連れてきた赤ん坊をみんなで面倒を見たりした、ゆるやかな気分を改めて思い出しました。

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