薄らいでしまう沖縄の空気感が、本に閉じ込められている
沖縄出身者であっても東京に住んでいると、その空気感みたいなものが捉えづらくなってしまう。だから、自分が知らなかった沖縄の風景が見えてくる本を、自然と手に取る機会は多いと思います。(1)は、THE BOOMのボーカリストだった宮沢和史さんの著書。
当時そこまで深く沖縄に関わっていなかった彼は「島唄」を歌い、批判を浴びたりもしました。その後、沖縄について学び続け、もっと真剣に沖縄と向き合いたいと、沖縄を知る10人と本で対談しています。
テレビではコメディアン的な役回りが多い具志堅用高さんが「沖縄人お断り」が残る時代に東京に出てきて、県出身者の希望になっていたことなど、自分の世代では知り得なかった、沖縄の人間としての葛藤を語っていて心動かされました。
また、それぞれに異なる沖縄との向き合い方を真摯に聞き取るなど、出身者の自分よりずっと深く土地に関わっていることにも新鮮な驚きがありました。
(2)は20歳くらいの時、「水滴」という短編で芥川賞を取ったのが沖縄の人だということで読み始めた小説家の作品。表題作は、基地のある町にホモソーシャルな暴力世界があって、そこから逃げ出すように海に行った2人の少年の親密な関係性が描かれるというもの。美術作品で自分が扱うテーマとも近くて、共感して読んだ作品です。すべて沖縄を舞台にした小説は、その湿度も閉じ込めています。
(3)はユネスコで消滅の危機にあると指摘される、与那国島のドゥナン語をリサーチした作品集。同じ作者が撮った作品で、島の中学生たちが忘れられていく言語と向き合った『ヨナグニ〜旅立ちの島〜』というドキュメンタリーもありますが、映像と対照的に、本では人が登場せず、閉ざされた場を前に途方に暮れるような硬質の写真を収録。
その距離感に、外の人が沖縄について語ることに対する逡巡のようなものも感じます。こういう形で様々なジャンルの本を介して、いろんな方向から沖縄のことを見て、感じ、知ることができるのは、貴重な体験かなと思います。