東京・浅草〈銀座ブラジル〉の元祖フライチキンバスケット
寄稿・長谷川昭雄
90年代の『ポパイ』で活躍したスタイリスト喜多尾祥之氏の元に弟子入りした20歳の頃、よく連れてきてもらったのが、この店だった。浅草生まれの師匠は、好きなものが明確。飯は決まった店にしか行かず、いつも同じメニューを頼む。そのルーティンの中で、僕が最も楽しみにしていた店が、ここだった。
オーダーするのは、柔らかく揚げた鶏胸肉の元祖フライチキンバスケット。師匠に倣って、塩を振っていただいたものだ。1本目は単品で。2本目は人参のピクルスとともに、バターをたっぷりぬった、柔らかいトーストに挟んで。師匠と同じものを食べ、同じ時間を過ごし、食事をしながらいろいろな話を聞いた。
あの時間が、自分が『ポパイ』を作る時のヒントになった。チキンバスケットは、そんなことを思い出させてくれるのだ。(筆)