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文芸誌『オフショア』×『代わりに読む人』編集長対談。2人はなぜ今、雑誌を作るのか

2022年、創刊準備号ながら200ページ強の『代わりに読む人』を創刊した友田とんさん、アジアが軸のウェブメディアを紙へと転換させた『オフショア』の山本佳奈子さん。彼らはなぜ今、文芸誌を作ったのか。

photo: Jun Nakagawa, Shu Yamamoto (magazine) / text: Neo Iida

2022年に文芸誌を作った、2人の編集長対談

友田とん

最初にお会いしたのは文学フリマでしたよね。

山本佳奈子

大阪でしたね。ちょうど『オフショア』を出そうと考えたときに神戸のジュンク堂で『代わりに読む人』を見て、これどうやって作ってんねやろって興味津々でした。

友田

僕も三軒茶屋の〈トワイライライト〉で山本さんのZINE『個人メディアを十年やってわかったこととわからなかったこと』を手に入れて、重なり合う部分があるなあと。

山本

雑誌を作るまで、友田さんはお一人で本を書かれてましたよね。

友田

そうです。会社員として働きながら本を作って、時間ができたら全国を行商して。充実してましたけど、自分の興味がタコツボ化していくような感覚がずっとあって。

次第に、僕以外にも面白い書き手はたくさんいるし、知らん人に興味を接続できたらなと。雑誌作りの経験はなかったけど、ここらで好きな文芸雑誌をやってみようと思ったんです。

山本

私もずっと一人でウェブで書いてたんですけど、10年やったらしんどい。「アジア」を軸に置くからには、なおさら視点を広げないといけない。そう思って、あえて紙でリニューアルすることにしたんです。

時代に逆行するようですけど、毎日更新が当たり前の“速いウェブ”に抗いたい気持ちもありました。

友田

ウェブは速報性が求められるけど、紙は納得いくまで作れるメリットがありますよね。

山本

そうですね。まとめ記事の量産もそうですが、近年文章を読むことが無味になっているんじゃないかと危惧していて。だからこそ私は長い文章を載せたいし、バズらなくていい。

図版を入れないのもショートムービーが流行の今、目を落ち着けて読んでほしいという思いがあります。人選はどうされました?

友田

面白い文章を書く人に真正面からお願いしました。漫画家の近藤聡乃さん、芥川賞作家の小山田浩子さんのようなオーソライズされている方々にもお声がけして。

山本

私は「自分以外の視点を受け入れる」が念頭にあったので、応募半分、依頼半分という形で進めてみました。このあたりは号を重ねながら最適なやり方を見つけたいですね。

友田

僕も100%自分で選ばず、「誰の“準備”を聞きたいですか?」と書き手の皆さんに名前を挙げてもらいました。いずれは推薦文を募集して、その書き手にお願いしたいと思ってます。

「試行錯誤の場となる公園」をうたっているので、誰でも自由に書ける仕組みが必要なんですが、まだ答えは出し切れていません。

山本

そうはいっても、最終的にどうしても自分の視点が入ってしまう。だからこそ、一度作った器に執着しないように、と心がけています。

友田

次号が本当の創刊号なんですけどね。準備号なのに本格的に作りすぎた気も(笑)。余力を残せばよかったかもしれないです。

山本

私は次号の予定をリスケしたばかり。ただ極論、取次を通していないから責任を取るのは私だけ。赤字を被るのは自分なので、急がず納得いくものを作ろうと思っています。

たくさん売るのではなく、出すことが主体。「日本にいる誰かがアジアのことを考えていた」という思考を残すことに意義があると思うので。

友田

誰が言ったか「100年後に残るのは飛び抜けた書籍と雑誌だけだ」という言葉があって。雑誌は書き換えできないし、時代を記録する。むしろウェブよりも残る気がします。

山本

印刷費とか送料とか計算難しいですけどね。電卓買いましたもん。

友田

僕もです(笑)。

山本

でも、インディペンデント雑誌の制作で1000万円の借金をこしらえるなんてそうそうない。気軽にやっていけたらいいなと思います。

『代わりに読む人』が影響を受けた3冊

左から文芸誌『ことばと』批評誌『LOCUST』角張渉『衣食住音』
影響を受けた3冊は、組版の参考にした文芸誌『ことばと』、角張渉が音楽界で生きるための仕事論を綴った『衣食住音』、旅行誌に擬態した批評誌『LOCUST』。

『オフショア』が影響を受けた3冊

左から同人誌『VIKING』雑誌『DEBACLE PATH』高橋幸子による『手づくり雑誌の創造術』
影響を受けた3冊。島尾敏雄らが創刊した同人誌『VIKING』、ハードコア・パンクを考察した雑誌『DEBACLE PATH』、滋賀で『はなかみ通信』を作る高橋幸子による『手づくり雑誌の創造術』。