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パリの空気を受け継ぐ、ワインの注ぎ手。目黒〈Un Jour〉宮内亮太郎

長い旅を経て、飲み手の前に届いたワイン。でもその一本はいつ、どう飲む?サービス一つで味は一変する。だからこそ、信じて委ねてみましょう。注ぐ人で味が変わる、はやっぱり本当です。

photo: Sachie Abiko / text: Kei Sasaki

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選び、注ぐ。ただそれだけで、
“あの空気”は作れる。

彼がグラスにワインを注げば、心地よくユルくどこか洒脱な、いつもの夜がまた始まる。開業から9年、店はさまざまに変化してきたけれど、流れる空気は変わらない。

7年のパリ暮らしの内の4年間を、〈ル・ヴェール・ヴォレ〉で過ごした。フランス中の造り手と世界中のワイン関係者たちが“たむろ”し、町の人にも大人気の酒屋兼食堂。白マーカーで肩に値段を書いたボトルがずらりと並び、小ぶりのグラスでガンガンやる。日本でも多くの店がコピーしたあのスタイルの元祖だ。

「毎日がカオス。一生いたいと思った」と、笑う。満席でもスタッフは平気でたばこを吸いに行く。星付き店並みの食材がごく簡素な厨房で調理され、手でバキッと折ったバゲットが添えられる。「無給でいい」と潜り込んだはずが、すぐ社員になり、あっという間の4年だった。

左/ロワール地方、ドメーヌ・モスのアンジュ・ブラン。右/ボージョレはジェローム・バルメのワイン。
左/フランスの家族と慕うロワール地方、ドメーヌ・モスのアンジュ・ブラン。「どっしりとした存在感、チャーミングな味に人柄が表れている」。右/「新しい造り手やインポーターの仕事も紹介したい」と推す、ボージョレはジェローム・バルメのワイン。「エチケットのインパクトに引っ張られがちだけれど、味もしっかりしていて価格も良心的」

「いいワインを選び、サーブして、売る。それさえきちんとできていれば、あとは何でもありだった」

帰国を余儀なくされた時、東京で同じ店をやることにした。オーナーも快諾し、暖簾分け的な「トーキョー」店が誕生。ところが簡単にはいかない。日本だとついかしこまった接客をしてしまう。料理人も何度か替わった。

でも「いいワインを選び、サーブして、売る」楽しさはフランスにいた時から変わらない。いいワインとは、人として付き合える造り手のもの。短期間だが住み込みで働いたドメーヌ・モス一家のように。

ビストロとしてはいち早く、9年前の開業時から酒販業を始めた。パリの店のように、飲めて買える場でありたいから。「自分の看板で」と、5年前に店名も変えた。2022年の春には、客がより気軽に寄れるように、カウンターを拡張。今は基本、1人で店に立つ。

常連客は、サービスが少し遅れても、しょうがないな、という顔を(でも、なぜか嬉しそうに)しながら、店主に軽口を叩く。いいワインが人の輪を作る、という本質。形は違えど、その気配は受け継がれている。

東京/目黒〈Un Jour〉宮内亮太郎さん

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