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自分の心を“読む”時間を大切に。三軒茶屋〈トワイライライト〉熊谷充紘が本屋を始めた理由

本屋が街から姿を消している。20年前に比べ約半減したとも。でもここ数年、実は、新しく本屋を始める人が増えている。コロナ禍によるライフスタイルの変化なのか、「でもやるんだよ」の精神なのか。2022年に開業した本屋を訪ねてみました。なぜ本屋を始めたんですか?

photo: Kazuharu Igarashi / text: Izumi Karashima

本を眺めてボーッとして、無駄な時間を過ごせる場所に

三軒茶屋駅から茶沢通りを下北沢方面へ歩いて3分ほど。目指す本屋は古いビルの3階。パン屋〈ボヌール〉の横にある細い階段を上がっていちばん上。店名は〈twililight〉と書いて「トワイライライト」と読む。

トワイライト、ではないんですね、と言うと、店主の熊谷充紘さんは「みなさんいろんな間違え方するんです。でも実は、違和感を覚えてほしくて、トワイライトにライを付け足したので狙い通り」と笑う。「間違えないことがいいことで、みんなすぐに正解に辿り着こうとするけれど、ライライト?なんかヘンだなと思う、そんな無駄な時間が生まれてほしいなって」

三軒茶屋〈twililight〉店主・熊谷充紘
熊谷充紘(くまがい・みつひろ)/編集や執筆、イベント企画も。

2022年3月11日にオープン。その4ヵ月ほど前、昔から知り合いだった2階のカフェ〈nicolas〉から「上の階が空いたからどう?」と誘われたのがキッカケだった。しかも、以前から本屋を考えていたわけではなかった、というから面白い。

「誘われたのがうれしくて、“じゃあ、借ります”と即決。意外と広くて、3階のワンフロアと上には小さなアトリエと屋上もある。さあ、どうしようと考えたとき、本が好きなので本屋にしようと。あと、カフェとギャラリーも好きなので併設して、もともと本にまつわるイベントを企画したりしていたのでそれもやり、リトルプレスを始めていたので出版もやって。実際は1人だけど、5人で家賃を分割する気分ならできるかなと。でも本屋経験がないから、どうやって本を仕入れるのかもわからない。京都〈誠光社〉の堀部篤史さんと、名古屋〈ON READING〉の黒田夫妻にいろいろ教えてもらいました。本当にやるの?って驚かれて(笑)」

店に並ぶのは熊谷さんが選び抜いた「好きな本」「気になる本」。国内外の小説、詩集、エッセイ、写真集、絵本、そして熊谷さんの蔵書の古書。

「僕にとっての本屋って、僕が好きな本はこれですが、あなたはどうですか?っていう対話だと思っていて。もちろん、そこから本を選び買ってくれるとうれしいですが、一息つける場所や時間を提供したいという気持ちの方が大きいんです。本を眺めながら、自分は今こういう本が気になるんだなと、心の中で対話をしてくれればいいなって。だから、ここでお茶を飲みながらボーッとするだけでもいい。それも自分の心を“読む”時間だと思うので」

三軒茶屋〈twililight〉店内
「置きたい本はたくさんあるけど余白を大切にしたい」と熊谷さん。

RECOMMENDED BOOKS

レベッカ・ブラウン『ゼペット』、安達茉莉子の詩集『世界に放りこまれた』、小山田浩子のエッセイ集『パイプの中のかえる』
〈twililight〉では本も出版する。左から、芥川賞作家・小山田浩子の初エッセイ集『パイプの中のかえる』、安達茉莉子の詩集『世界に放りこまれた』、柴田元幸が翻訳したレベッカ・ブラウンの『ゼペット』。