地元愛が人と酒を繋ぐ、抜群に愉快な深川飲み。
今、清澄白河で飲むのがやけに楽しい。ランドマークといえば長らく清澄庭園と東京都現代美術館だった静かな街が、2015年に〈ブルーボトルコーヒー〉が上陸して以降、急速に“コーヒータウン”として知られ、観光客で賑わうように。もともと材木商が多い界隈のため天井の高い木材倉庫が多く、焙煎所を造るのに好条件だったのも、今や知られた話。
賑わいとともに若い世代やファミリー層も移り住み、最近はシェアオフィスもちらほら。下町の歴史的遺産だった古倉庫や工場は、開放感たっぷりのワインビストロやブルワリーに生まれ変わり、人々が集うハブになっている。
この街は、店とお客のあふれる地元愛が、店同士、客同士のいい繋がりを生み、飲みの楽しさを支えている。清澄通りを歩いて15分ほどの隣町、門前仲町と併せて、ハシゴ酒に最高な4軒をセレクトした。今宵は深川っ子の胸を借りて、大いに飲むのだ!
〈Que c'est beau〉
早くも街のハブとなる
清澄の新アイコン
東銀座〈カレーとワイン ポール〉を繁盛させていたロペスこと新宮朋樹さん・未奈さん夫妻が、新天地の清澄白河で開いたワインビストロ。
元車庫だったという天井高約4mの空間を、建築事務所〈Paddle〉の加藤匡毅さんが快適なガゼボ=あずまやに蘇らせた。ご近所のプランツショップ〈LUFF〉のグリーンも名脇役だ。ステージのごとく高めに設計された厨房で渋く料理に打ち込むロペスさんと、こぼれる笑顔で接客するワイン担当・未奈さんのナイスな連携プレー。
料理はパテやリエット、自家製ハム、仏産空豆とカラスミなど、ワイン飲みの心をガッチリ掴むラインナップ。ワインはすべてナチュラルで、未奈さんが心惹かれるフランス産が中心だ。大きなガラス窓から見える楽しげな景色に吸い寄せられて、すっかり界隈の寄り合いスポットになっている。
ほかにしらすと青唐辛子のオムレツ¥1,200も名作。ワインのグラスは10種類ほど、価格は¥1,000均一。ボトル¥6,000〜。
〈SIORI〉
旬素材のイタリアンでもてなす
ワイン居酒屋
銀座の〈SOYA〉など、イタリアン一筋で腕を磨いた店主・達城宗和さんが、地元で店を開くという長年の夢を叶えた。イタリアンの手法に時には和の手法を織り交ぜて、「ワインに合うつまみ」を繰り出す。
その伊&和のさじ加減が何とも洒脱なのだ。魚は代々続く地元の鮮魚店から仕入れるなど、旬の食材に的確な仕事を施し、味つけはできるだけシンプルに、が基本だ。
扱うワインはナチュラルで、フランス、イタリアをメインに200〜300本をストック。店主が「ペアリングにはあまり興味がなくて」と控えめに語る通り、お客自身が自由に、大らかにワインを選ぶことを勧めている。山小屋をイメージしたという空間に、BGMの日本語のロックが妙にハマる。22時以降はのんびりとしたワインバーに変身。世代を選ばない、ワイン好きのための場所だ。
ワインはグラス¥900〜、ボトル¥5,800〜。自家製リモンチェッロソーダ¥1,000もおすすめ!
〈Diner Vàng〉
ワインとハーブの妙が楽しい
新生ベトナミー
ホーチミン出身の夫妻が腕を振るう話題のベトナム料理店。勝どきのワインビストロ〈ぺシュール アグライア ラ テーブル〉のオーナー石井りかさんによる2号店で、長年ベトナムに通ううちに思いが募り、ついに、念願の店をオープンした。
シェフのロイさんが作るモチモチ食感とニンニクの刺激がたまらない発酵ソーセージ・ネムチュアをはじめ、バインセオ、フォーやブン(米粉麺)など、どれも現地のレストランで培った本場仕込みの味。茨城県の自社農園でベトナム原産のバジルやミントなどのハーブ類を栽培し、現地さながらにふんだんに使っているのも嬉しい。
これに合わせるのがナチュラルワイン。ベトナム料理の「甘辛酸」とハーブの香味に、白やオレンジが実に合う。ボトルは冷蔵庫から自分で選び、気楽に手酌で。このラフさもまた、楽しいのだ。
ワインは20〜30種、グラス¥600〜、ボトル¥3,000台〜。ベトナムビール¥650。バインミーはテイクアウトも。
〈FOLKWAYS BREWING〉
昼飲みも最高に楽しい
住宅街のブルーパブ
まだ日のある開店時間と同時に、顔馴染みの客がポツポツ訪れ、あっという間に8席のカウンターが埋まる。自然光が差し込む店内で飲むペールエールは格別だ。
店主の古沢大典さんは、2019年4月に酒類製造免許を取得。その約1ヵ月後に、小道の奥のかつて製本所だったこの場所に、マイクロブルワリーを開業した。
店内の壁には8本のタップがあり、自社醸造とゲストビールがほぼ半々のバランス。IPA、ペールエール、サワーエール、ポーターなど、完成した順に順次お披露目される。ゲストビールは主にアメリカのブルワリーのもので、これらも個性派揃いで面白い。店主いわく“タップルームに徹して”フードは軽めのものだが、時には常連が差し入れるグルメなおみやげのご相伴にあずかることも。連日の賑わいぶりは、地元っ子からの愛され度を物語っている。