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20畳の大広間でいただくお座敷洋食、大森〈洋食 入舟〉。花街の洋食を日常使いのご馳走へ

明治期に発展した洋食は、昭和の時代に入っても特別なご馳走だった。そうしたハレの日の時間を象徴するお座敷スタイルの洋食店は、時代の移り変わりとともに年々姿を消し、「食の文化財」的存在となりつつある。“今ここにある奇跡”を噛み締めるべく、大森〈洋食 入舟〉を訪ねた。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Yoko Fujimori

花街の洋食を日常使いのご馳走へ

かつて東京屈指の花街だった大森に、お座敷洋食の店として大正13(1924)年に誕生した〈入舟〉。厨房を担うのは4代目の松尾信彦さん。曽祖父の初代・山本高由さんの頃からメニューはほぼ変わらないが、27年前に店を継いだ際、素材とレシピを一新。

銘柄肉を使い、毎朝豊洲に通い魚を仕入れる。看板の「天使の海老」のエビフライも松尾さんの発案だ。品のいい甘さで、細挽きのパン粉を纏った姿も美しい。

祖母の雅子さんは89歳まで店に立ち、街の人々に愛された名物女将。「大切に残してきたこの空間を普段使いしてほしいし、もっと広く知ってほしい」と松尾さん。100年の歴史と磨き続ける定番の味が、次世代の心に響いている。