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歌舞伎役者が贔屓にするお座敷洋食、東銀座〈銀之塔〉。ご飯に合う「和食のシチュー」の完成形

明治期に発展した洋食は、昭和の時代に入っても特別なご馳走だった。そうしたハレの日の時間を象徴するお座敷スタイルの洋食店は、時代の移り変わりとともに年々姿を消し、「食の文化財」的存在となりつつある。“今ここにある奇跡”を噛み締めるべく、東銀座〈銀之塔〉を訪ねた。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Yoko Fujimori

ご飯に合う「和食のシチュー」の完成形

歌舞伎座まで徒歩1分、蔵造りが目を引く〈銀之塔〉。「役者陣に温かいものを食べてほしい」とシチュー専門店を開いて約70年。贔屓の役者も多く、出前で熱々を届けるため器は土鍋に。フツフツと幸せな音を立てるシチューは、色味は味噌のごとく濃厚でいて、味わいはスッと澄んでいる。

これは香味野菜やテール肉などを3日間、火入れと寝かしを重ねる間、丹念にアクをすくうから。これぞ和のシチューの極意。

「ご飯に合う味が大前提ですから」と、代表の山内由起子さん。グラタンもベシャメルソースの中にシイタケが潜み、白米との親和性を生む。時代とともに店の大半がテーブル席に変わったが、この味はやはり、小上がりが似合うのだ。