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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:坂口安吾『暗い青春』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「中上健次『岬』」を読む

edit & text: Emi Fukushima

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坂口安吾『暗い青春』

坂口安吾『暗い青春』
坂口安吾著。青春に絡みつく死や絶望の影に翻弄される。『暗い青春』所収。角川文庫/748円。

青春を取り巻く鬱感情を、オムニバスで

高校生の頃に初めて読んで以来、何度か読み返している本作。同人誌の編集作業のために自殺して間もない芥川龍之介の陰鬱な旧宅に通ったこと、身近な3人の人物が死んだこと、小説を書く行為に苦悶したこと、戦争に翻弄されたことなど、タイトルの通り、青春の暗さを象徴する出来事と持論が書き綴られています。

必ずしも私小説であるとは明言されていませんが、本作は書き手自身の心の中にあるどことなく鬱屈とした感情を象徴するエピソードが、時系列にかかわらず羅列されているような印象。思いの丈をひたすらぶつけているような潔い文章にグッときます。

それにしても、坂口安吾の文章はカッコいいですね。“人間の喜怒哀楽も、舞台裏の演出家はたゞ一人、それが死だ”というフレーズなんて真骨頂。絶妙に厨二心をくすぐります。坂口によれば、大きな希望があるがゆえに“青春は絶望する”時期とのこと。

僕は仕事柄、いつまでも青春を引きずっている感覚もありますが、そこまで大きな絶望を感じたことはありません。でも芸人としてはまだまだうまくいかないことも多い中、SNSを開けば、かつての同級生たちは責任あるポジションに就いていたり、家族を持って家を買っていたりする。後悔しているわけではないですが、自分には得られなかった充実した人生を意識しては、日々小さな失望を繰り返しています。

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