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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:中上健次『岬』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「太宰治『HUMAN LOST』」を読む

edit & text: Emi Fukushima

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中上健次『岬』

中上健次『岬』
中上健次著。血のしがらみに翻弄される青年の苦悩を描く。第74回芥川賞受賞作。文春文庫/660円。

この家族なら、壊したくなるのも頷ける

なんとなく読む機会を逃していた中上健次の小説。最近『岬』の文庫版を本屋で見つけて手にとってみました。紀州を舞台にした本作のテーマは、異父兄弟たちと、その配偶者たちを巻き込んだ家族間の複雑な関係性。血縁のしがらみにとらわれ、アイデンティティに苦悩する青年が主人公です。

まず好きなのは方言が多用されているところ。主人公の姉の家で家族が酒盛りをする場面から始まるんですが、方言の応酬があることで、一気に情景が浮かんで引き込まれるんですよね。あまりにコテコテなので正しい意味が読み取れないところもありますが、それぞれの性格や息苦しい空気感が伝わってくるところが不思議。筆力によるものだなと思わされます。そして作中、ある出来事を機に複雑な血縁の元凶である両親への恨みを募らせた主人公は、交流のない異母妹に接触します。結末に向けて露わになっていく彼の破壊衝動や倒錯具合にも心掴まれました。

本作の家族ほどの複雑な事情はありませんが、僕は家族と仲が悪く両親に何年も会っていません。そんな中先日、ある番組の企画で人間ドックを受けることになりました。両親の既往歴を提出しなければならず、マネージャーを介して情報をもらったところ、父と全く同じ薬を飲んでいることがわかりました。顔を合わせていようがいなかろうが、血は争えないもんですね。

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