「小説は仕事の延長のような気がして読めなくて」と話す黒島さんの愛読書は、哲学書やエッセイ。なかでも、劇中で開くシーンがあって知ったという『人生論ノート』は、表紙が擦り切れるほど読み込まれている。
「例えば、イラついたりした時に怒りについての章を読むと、どうしたらいいかわからない自分の気持ちを本が整理してくれる。何かに悩むとよく開いていますね。希望について、旅についてとか、いろいろな項目が書かれているのに、愛についての章がないってことに最近気づいたんですよ。嫉妬と怒りの章にそれが書かれているのを発見して、著者が愛について思うことがなんとなく伝わってきて面白いなと。
でも、たぶんまだ1割か2割くらいしか、内容を理解できていないと思うんです。読むたびに自分の体に染み込んでいくような感覚があって、もっと知れたらいいなと思うし、わかりたいなって。本ってこんなにボロボロになるんだなって、初めて知った本ですね」
ページの角に折り目をつけているのはこの本だけだと教えてくれた。唯一の哲学書のほかにエッセイを好むのは、最初から順を追うのでなく、思い立った時に好きなページを拾えるから。その読み方も独特だ。
「キッチンやトイレ、ベッドサイドと、家のいろいろなところに本を置いていて、合間にちょっと開いたりするんです。エッセイなら一気に読み切らなくてもいいし、気分で好きなところを読める。もちろん、読書に集中する時もありますが、5分くらいのなにげない時間があったら、携帯を見るより、本を開きたくて」
コロナ禍で時間ができた時には、難しくなった旅の欲求を満たしてくれる紀行などを含め、興味の赴くままに、たくさんの本を買ったという。
「コロナをきっかけに食べることに意識が向いて、改めて命のありがたさについて考えさせられたのが『ぼくは猟師になった』。銃を使わず、同じ生物として罠猟で動物と向き合い、皮まで無駄なく活用するところまで、余すところなく命をいただく生活には憧れます。石垣島に住んでいる祖父が畑を守るために同じ罠猟をやっているのもあって興味を持ちましたが、効率だけではない本来の食の在り方について考えさせられました」
現代の暮らしに忘れ去られている根源的な食の姿を見るのと同じように、今は亡き女性たちの生き方に触れるためにも、本を手に取る。そこに共通しているのは、憧れだろう。
「篠田桃紅さんは、たまたま展覧会のポスターで知って、観に行ったら作品が本当に素晴らしくて。もっと知りたいと思い、『一〇三歳になってわかったこと』を買ったんです。本を読んで、作品だけでなく、その人生や考え方も含めて憧れの女性になりました。高峰秀子さんも似ているんですよね。子役から大女優になるまでを綴った『わたしの渡世日記』には、彼女のサバサバした性格が表れていて、ちょっとしたユーモアにも思わず笑ってしまう。
“信頼できる人になるのが一番”という一文に、自分もそういう人間になりたいと思わされたり。当時の現場での様子も描かれていて、会ったことがないのに一緒に仕事をしたことがあるような感覚になれるというか。尊敬できる部分がたくさんありました」
生まれ育った沖縄のことも、本がすべて教えてくれた
2022年春から、沖縄を舞台にしたNHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』に出演した際には、沖縄に関連する本をたくさん読んだ。なかでも『アメリカのパイを買って帰ろう』は、記憶に残る一冊になった。
「この本には、高校生の時にバイトをしていた、アップルパイが有名な沖縄のレストラン〈ジミー〉が出てくるんです。自分が生きてきた沖縄を身近に感じながら、当時のアメリカとのつながりや、沖縄への影響について深く知ることができて、沖縄を知ろうと買った本の中でもすごく面白かった。沖縄の人って、あるものを受け入れて自分たちのものにして、その中に面白みを見つけてきたのかなと思うんです。苦境にあっても楽しめる遊び心を持っていたのかなと、この本を読んで思いました」
様々なきっかけから波及していくような、黒島さんの本の守備範囲には驚かされるばかりだ。
「一つ一つをなかなか深く知ることにはならないけれど、一度興味を持ったら、広く、何でも知りたいんですよね。だから、本は先生みたいな存在です。自分の知らないことを全部教えてくれるから」