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日本の中のインド亜大陸を食べ歩く。〜神戸編〜

インド、ネパール、パキスタンなど、インド亜大陸と呼ばれる地域の人々が、日本に祖国の文化を根づかせている。全国に点在するコミュニティには、ディープな食体験があった。富山・新潟編はこちら

初出:BRUTUS No.918「CURRY for Geeks」(2020年6月15日発売)

photo: Masaki Kobayashi / illustration: Yuko Saeki / text: Toshiya Muraoka

神戸で本格的なインドカレーを追い求めていくと、日本とインドの近現代史が見えてくる

1923年の関東大震災以降、真珠や宝石、繊維を主な生業(なりわい)とするインド人貿易商たちが、被害のあった横浜から離れてやってきた町が、神戸だった。一時期は、神戸経済を支えていたといわれるほどインド人たちが長く暮らす歴史がありながら、神戸にはインドレストランはそれほど多くない。

大きな理由は2つあり、一つにはインド人たちがメインとする貿易事業が繁盛していたため、飲食業へ進出するという選択肢が眼中になかったこと。もう一つが、彼ら裕福なインド人たちはほとんど必ず家政婦を雇っていたことが挙げられる。

「神戸に住むインド人たちの中でも北西部グジャラート州のジャイナ教徒たちは、非常に厳格な菜食主義者なんです。おかずとなる野菜類の中でも、根菜類すら食べなかったりします。ちなみに彼らは東京の御徒町にも多く暮らしていますが、それだけ厳格な食生活を守るには、外食先で誰が作ったのかわからない料理を口にするわけにはいかないんですね。なので、それぞれの家庭のお抱え家政婦が作った料理しか食べない。それが、神戸にインド人コミュニティがありながらもインド料理店が少なかった大きな理由だと思います」

おいしい料理を食べるため、日本の中のインド亜大陸を探し求めていると、日本と彼らの国が関わってきた「近現代史」が立ち上がってくると小林さんは言う。インド人貿易商たちのビジネスが以前ほど大きな産業ではなくなり、かつIT業など新しい業種のインド人たちが増えてきたために、インド人たちの食生活を反映した飲食店も根づき始めている。

小林さんは神戸在住のインド人家庭のディナーに誘われるほどコミュニティに入り込んでいるが、厳格な菜食主義のジャイナ教徒や同じ菜食でもまた違う規律を持つスィク教徒たちの食事も「イスラム系の肉々しい料理とはまた違って、すごくおいしい」という。インドやパキスタンに行かずとも、神戸でも本格的な料理が食べられる。いやむしろ、本国でも食べられないような一皿が、日本の中のインド亜大陸で待っている。

佐伯ゆう子 イラスト
食事の支度も共同で行う。そして、一緒に食べるという一連の行為がスィク教ではとても重要視されている。

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