Eat

Eat

食べる

日本の中のインド亜大陸を食べ歩く。〜富山・新潟編〜

インド、ネパール、パキスタンなど、インド亜大陸と呼ばれる地域の人々が、日本に祖国の文化を根づかせている。全国に点在するコミュニティには、ディープな食体験があった。

初出:BRUTUS No.918「CURRY for Geeks」(2020年6月15日発売)

photo: Masaki Kobayashi / illustration: Yuko Saeki / text: Toshiya Muraoka

富山・新潟編

コンビニをそのまま利用したモスクの中で、断食月のご馳走として、輪切りのブリが入ったカレーを食べている

1990年代に日本にやってきたロシア船は、1人1台に限り、中古車を「土産物」というカテゴリーで持って帰ることができたという。そのため搬出される新潟港には中古車を商うパキスタン人が集まっていた。

ロシアが自国の自動車産業を保護するために輸入を禁止したのちも、パキスタン人たちは土地に根づき、コミュニティを形成していく。港湾使用料が新潟港よりも安価な富山港へと輸出の拠点が移った後には、新潟にそのまま残る人、富山で新しいコミュニティを作る人と分かれていった。

「北陸には非常に大きなイスラム系コミュニティがあって、みんな一堂に、モスクに集まります。パキスタン人が一番多いんですけれども、中にはバングラデシュ人やインド人、スリランカ人もいて、断食月の日没後にイフタールというご馳走を作るんですが、その食事当番を順繰りで持ち回っているんです。例えばバングラデシュ人だと魚のカレーが多いんです。

彼らは本国ではコイのような淡水魚を好むんですが、なかなか入手できないので、ブリを使ったりしますね。日本だと三枚におろしてから料理するのが当たり前ですが、彼らは輪切りにするのが好きなんです。日本人と同じ食材を使っていても、まったく違う調理法で食べる。彼らなりの食材の取り入れ方も面白いです」

ただし米どころ北陸とはいえ、ジャポニカ米は使わない。本国から取り寄せた粘り気の少ない長細い米を好んで食べている。また、モスクを一から建設すると費用がかかりすぎるため、彼らは既存の建築物を流用しているという。

「最低限お祈りできて、みんなが集まれて、料理を作ることのできる設備があればいい。塗り替えてますが、昔はコンビニだったとすぐにわかる建物をモスクにしたりしてますね」

譲れないものは守りつつも、応用できるものは軽やかに取り入れてしまう。その象徴のようにしてブリカレーはあって富山とバングラデシュの渾然一体となったカレーは本国にも存在せず、彼らのコミュニティに飛び込まなければ食べられない。

佐伯ゆう子 イラスト
モスクにおける断食月中のイフタールの様子。お祈り後に集団で一緒に同じものを食べる宗教儀礼。

日本の中のインド亜大陸を食べ歩く。〜北関東編〜

日本の中のインド亜大陸を食べ歩く。〜新大久保編〜