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編集者・白石正明が語る、わたしの百読本「難解さも含め、読み手を冒険させてくれる」

医療従事者のみならず、幅広く読まれている「シリーズ ケアをひらく」の編集者・白石正明さん。「ケア」の本質を伝えるべく模索していた頃にヒントをもらったのが、一見関係がなさそうな「社交」を説いた本だった。

Photo: Kaori Oouchi / Text: Ikuko Hyodo

『社交する人間 ホモ・ソシアビリス』

「難しくて、正直わからない部分も多い。だけどなぜか気になる本で、読むたびに新しさを感じるんです」

わからないから興味が湧く、理解したいから傍らに置いて何度も開いてしまう。世の中にはそういった類いの本もあるが、白石正明さんにとって『社交する人間 ホモ・ソシアビリス』はまさにそれ。そもそも本書を手にした時は、社交に対してネガティブなイメージしか持っていなかった。

「社交界という言葉が象徴的ですが、金持ちが暇つぶしにやるものというイメージで、最も近寄りたくないものでした。だけどこの本で、社交は暇つぶしなどではなく、人間の核心であるという思想に触れて、自分のなかにあった社交観がひっくり返ったんですよね。

社交にもいいところがあるんだよっていう程度の気づきなどではなく、人間はむしろ社交するために生きているんだっていう、明らかなシフトチェンジが起こったんです」

単行本の初版は2003年。白石さんは2000年に医学書院で、看護や福祉の専門書でありながら、一般の人も手に取りやすい「シリーズ ケアをひらく」という書籍のレーベルを立ち上げている。今でこそ「ケア」という言葉は世の中に浸透しているが、当時、ケアの本質的な意味や考え方を多くの人に理解してもらう術を探すなかで、本書を手に取ったところもある。

編集者・白石正明

「僕はケアと治療をとりあえず、反対のものとして捉えています。注射のように一時的な不快を伴うけれども、改善を期待できるのが治療の基本ですよね。

一方でケアは現在の交流に着目して、いかに現状を肯定するかが根本にある。要は“そのままでいいんだよ”ってことなんですけど、もっとみんなが納得できるような論理のパターンを知りたかったんですよね。

社交も単なる人まじわりで、本来的には何も生産しないものです。リフレッシュしたから良い生産が可能になるというように、結果に価値を置きがちだけど、この社交論は結果として生まれるものではなく、社交の目的は社交だと主張している。その考え方は救いになりました」

社交の重要性を説くうえで様々な学説を引き合いに出しているのだが、「そのへんはあまりよくわからない」と笑う。しかし前職で校正者を長くやっていた白石さんは、一字一句取りこぼさない読み方が体に染み付いている。

「今言われて気がついたけど、その反動であえて宙ぶらりんな読書をしているのかもしれません。途中がわからなくても気にせず、むしろ全体を把握したいんですよね。本を読むのって、基本的には受動的な体験だけれども、能動的に受動しているところがあるじゃないですか。だからわからないところはわからないまま、面白いところをピックアップしていく感じなんです」

多少理解できなくても、優れた書き手は一緒に冒険を楽しんでいる感覚を読者に抱かせてくれるもの。

「著者の山崎正和さんや僕が編集した『中動態の世界』の國分功一郎さんなどもそうですが、船頭のように“ここはわからなくても、まず進もう”などと必ずサインを送ってくれるんです。そういうサインを逃さなければ、とりあえず最後まで一緒に行ける。幻聴かもしれないけれど、僕には聞こえるんですよね(笑)」

『社交する人  ホモ・ソシアビリス』山崎正和/著
見返しには細かいメモが。「この本で重要なことというより、ケアを理解するきっかけになりそうな言葉や切り口を記しています」