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写真家・佐藤健寿が語る、わたしの百読本「歴史、人間、旅。全方位的な好奇心の源」

小説や漫画、ゲーム、ビジネス書など、様々な分野で題材となってきた「三国志」。佐藤健寿さんは漫画を通してその魅力の虜になった一人だ。世界の奇妙なものを追い続ける写真家にとって、「三国志」から得られる刺激とは?

Photo: Shin-ichi Yokoyama / Text: Yuriko Kobayashi

『三国志』

「『三国志』との出会いは中学時代。林間学校でペアになった同級生が、すごい勢いで内容を話してきて(笑)。ハマった経験のある人ならわかるかもしれませんけど、『三国志』って伝染力がすごいんですよね。

クラスで伝染して、その後、家庭内に広がったり、パンデミックが起こるんです。感染したら最後、全60巻を一気に読まずにはいられなくなるという……」

『三国志』の舞台は約1800年前の中国。400年続いた漢王朝が滅び、魏・呉・蜀の三国が興って晋に統一されるまでの物語を描く。

「とにかく登場人物が多くて、ちょい役も含めたら500人は余裕で超えるほど。それが魅力の一つで、もちろん劉備とか諸葛孔明とか主人公的な人物はいるのですが、その他のキャラクターの描き方も豊かで、細かいエピソードからそれぞれの人間くささみたいなものが伝わってくる。

読むほどにもっと深く知りたくなって、『三国志人物図鑑』みたいな本を片手に漫画を読んだりもしてましたね」

『三国志』横山光輝/著

「僕にとって『三国志』は群像劇」と佐藤さん。中学時代に読んだ時にも、うっすらとそんな印象を持っていた。

「それまで読んでいた少年漫画は強いやつが強かったんです。『ドラゴンボール』だって、強いやつがどんどん強くなって勝っていく。でも『三国志』は違って、いくら兵力で勝っていても諸葛孔明のような知力を持った人の前に敗れてしまう。じゃあ賢ければいいのかと言ったらそうでもなくて、全知全能のような諸葛孔明も病には逆らえなくて死んでしまったり、誠実な人でも真面目であるがゆえに処刑されてしまったり、裏切られたりもする。

色々な人、生き方があって、まさに人間社会の縮図みたいな感じ。だから何度読んでも発見があるし、その都度、共感する人や考え方が変わる。そこが面白いし、読み続ける理由の一つ」

実は佐藤さん、読むだけでは飽き足らず、三国志の舞台となった場所を幾度か旅しているそう。

「浙江省に諸葛孔明の子孫が作った諸葛八卦村というのがあるんです。諸葛孔明が得意とした戦術に“八卦の陣”というものがあるのですが、敵が一度入ると逃れられない最強の陣形。そこは村全体が八卦の陣のような構造になっていて、家の形や並びが非常に複雑なんです。

この村ができた中世の中国は村同士の争いが多く、外からの襲撃に備えるために、こうした“防塞都市”を造ったのではないかといわれているそうです。時代を超えて孔明の智が受け継がれているわけです」

自分の足で歩くことで、『三国志』はより奥行きを持って広がっていく。

「漫画だとどうしても日本のスケール感で読んでしまうんですけど、実際に行ってみると、中国のスケール感はとんでもない!容易に人が入れない厳しい環境だからこそ、ここを基地にしたんだとか、実感としてわかるんです。

それを踏まえて読み直すとまた新鮮で、見え方も変わってくる。そんなふうに『三国志』は、永遠に飽きることなく読める稀有な本。この文字数じゃ語り尽くせないですよ!」