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作家・小林エリカが語る、わたしの百読本「家族として、そしてルーツとしてのホームズ」

練馬区ヴィクトリア町に生まれ、こたつでミカンを食べながら「ワトソンなのかワトスンなのか、それが問題だ」と一日中議論する両親のもとで育った小林エリカさん。何度でも味わえるシャーロック・ホームズの魅力とは?

Photo: Tomo Ishiwatari / Text: Keiko Kamijo

「ホームズとワトスンは我が家の一員だったので、好きとか嫌いというのを超越していました。本を読むというよりは、一緒に暮らしてました」というのは、作家の小林エリカさん。

ご両親の小林司さんと東山あかねさんは、ホームズの研究書や、シャーロキアン(ホームズの熱狂的なファン)たちの間で正典(キャノン)と呼ばれるシャーロック・ホームズ全集の翻訳などを手がけ、さらには日本シャーロック・ホームズ・クラブを立ち上げた正真正銘のシャーロキアンなのだ。

『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』

小林さんも幼い頃から毎月ホームズにまつわる会合へと連れ出され、シャーロキアンたちが侃々諤々と議論をする場を目の当たりにし、小学校の時には自身も研究発表をしていた。

「研究会は家族総出で盛り上がるイベントでした。ホームズの物語自体も面白かったのですが、細部を拾って研究して、古い歴史書を取り寄せて調べたり、調査のためにロンドンだけではなく、どこまでも出かけて本気で研究し議論し合うシャーロキアンの情熱に感動していました。

歴史や過去を知りたいと思う私の原点はここにあるなと。実は、本を読めるようになる前から会に出ていたのもあり、物語も犯人も全部知っていましたね。
ただ、研究発表をするうえで全集は必読なので、発表があるたびに何度も読み返していました。ちなみに小学校5年生の時の研究テーマは“ホームズに登場する食べ物の変遷”でした」と小林さんはホームズ歴を語る。

作家・小林エリカ

作家や時代の背景を知って再読すると、
違う物語が見える。

家族のような存在だったホームズとワトスンだったが、大人になると少し頻度は減ったという。2021年に発表した小説『最後の挨拶 His Last Bow』は、ホームズとコナン・ドイル、そして自身の家族の記憶と時間が交錯する物語。

この小説に取り掛かる際、小林さんは記憶の蓋を開けるように再びホームズの世界の扉を開けた。すると当時とは違う物語が見えてきた。

「子供の頃はホームズの規範にハマらないカッコよさや謎解きに夢中だったのですが、大人になると背景の時代も見えてきて。

例えば『最後の挨拶』は第一次世界大戦中に書かれていますが、ドイル自身がこの戦争で親しい人を亡くして心霊主義に傾倒していくことや、実は探偵小説が書きたくなかったこと。

作家の背景や時代の流れを知ったうえで読むとすごく感慨深い。また、ホームズの魅力は何度読んでも色褪せない。永遠の推しですね」

『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』、『最後の挨拶 His Last Bow』、『シャーロック・ホームズ入門百科』
(左)『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』、(右)『シャーロック・ホームズ入門百科』はご両親の著書。(中)小林エリカさんの著書『最後の挨拶 His Last Bow』。