刀道七段、抜刀道四段、小刀護身道四段、柔道三段、教士。空手、居合道も有段者で、果ては鉄砲所持許可を保有。俳優にして、真の武道家でもある藤岡さんに過去事務所でインタビューをした際、本がいっぱい詰め込まれた段ボールをいくつも目にしたことがあった。あまり知られていないが実は超がつく読書家でもあったのだ。
『武士道』
「親父に子供の頃から“武道を極めろ、精神を鍛えろ、そのうえで本を読め”と言い聞かされてきたおかげで、活字から離れられなくなってしまった。幼い頃はみんな自分と同じ教育を受けていると思っていたくらい自分にとって本を読むことは当たり前のことでした。
“文武両道!これは日本人のバイブルだ。この教えが血となり、骨となり、肉となる”と何度も言われてきたのが、新渡戸稲造さんの『武士道』。
私はこの本を、日本の義務教育に取り入れるべきだと常日頃から思っています。幼稚園児には絵本で見る武士道、小学生には漫画で見る武士道、中学生になれば持ち歩ける文庫を与えればいい」
日本の良い文献を読んできた積み重ねがその人の土台になる、と考える藤岡さんの読書方法は少し変わっている。本を読みながら線を引くのに始まり、気になる文はノートに書き溜め、さらに時には墨をすり、筆を持って半紙と向き合う。
「よりインプットを強くすることで、肝に銘じる」のだと言う。日本の過去、現在、未来を考えながらビジョンを立てるための行動なのだそうで、特に『武士道』では幾度となくそれを行ってきた。
『武士道』の著者・新渡戸稲造は、ドイツに留学中「宗教教育がないのにどのように道徳を身につけるのか」という問いに答えることができず、武士の時代に着目し日本の伝統精神を集約。世界に日本の道徳を伝えるため1900年に英語版としてこの書を創刊した。

世界で親しまれた書でありながら、この本を読まない日本人が多いのは、戦後の環境の変化によるなど諸説あるが、そんな中でも、藤岡さんはこの本をバイブルとして叩き込み続けてきた稀有な存在。写真の書は、藤岡さんが『武士道』を参照し自分なりに解釈した自作の格言。これを前に、日本人が失った精神について語った。
「現代の日本人は先輩たちの犠牲によって築かれた土台の上で安住しきっている。この国はこれからどうなるのか。このままでは国際的競争社会で取り残されていきますよ。ロサンゼルスに総合武道の道場を構えて指導している私の友人がいるんですけど、外国の子供が押しかけて大盛況なのだそう。
外国人の方が、日本文化の価値をよく知っているんです。『武士道』も海外の方が広く慕われている。世界中どこでも、本屋で当たり前のように置かれているんですから。
先日、私の尊敬する友人、ジェームズ・キャメロン監督は動画で私に“真のサムライ”と言ってくれた。彼も武士をよく理解しているということ。海外は今、日本人に武士の魂を取り戻してほしいんです」
『武士道』を読んでいる子は
優しく、それでいて強い。
藤岡さんの古民家のような内観の事務所(甲冑、日本刀などが置かれミュージアムのような雰囲気)には外国から多くの著名人、国家権力者までもが武士の教えを請いに訪れるという。
「甲冑は25~30kgくらいの本物の鉄鎧。戦いを生き抜いてきた人はたくましかったんですね。私も稽古の際はその鉄鎧を着て、真剣を振るんですよ。本物の武士に近づくことができるから」
まさに武士のような生き方をし、しかも思想家・新渡戸稲造のように国際文化交流にも積極的だからすごい。
『武士道』は、外国人向けの日本人文化論として生まれただけにわかりにくい部分が多かったが、PHP文庫の現代語版『武士道』は、武士道とはなにか、武士がどのように教育されていたのか、武家の女性に求められた理想などがわかりやすく記されている。日本人の倫理観・道徳観を教えるうえで、子供たちに読ませるのにはうってつけなのだという。
「長男にも長女にもいつも、僕が覚えてほしいところに線を引いた『武士道』を持ち歩かせて読ませているんですよ。女武士道もありますから。子には父が大事にしていることが叩き込まれているから、優しく、そしていざとなったら強い。
昔から戦は、敵のアイデンティティ、歴史、文化を喪失させて弱体化させ、脇が甘くなったところを狙う。日本は今その危機に直面しているから、今こそこれを100回読むべき。必ず日本人は誇りを取り戻すことができる。
もちろん私の場合、そんな数では収まらないほどこの本を読んでいますが。本の内容は私の書を見てもらえれば一目瞭然。何度も読み、私なりに解釈したものをまとめています」