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東京で巡る世界の餃子。〜チュニジア、ネパール、イタリア、中国編〜

世界中で「餃子のようなもの」を探してみると、似ているようで異なる、個性さまざまな料理に行き着いた。現地の食生活や歴史まで見えてくる、東京で世界の餃子旅行をしよう。「ポーランド、ロシア、モンゴル、ジョージア編」も読む。

 

 

photo: Kenya Abe / text: Kahoko Nishimura

チュニジアのブリック

サクサク生地がトロトロ卵を包み込む

地中海に面し、アフリカ、ヨーロッパ、アジアの人々が入り交じるチュニジア。多様な文化を受容してきたこの国には、春巻きのような皮で具材を包んだ「ブリック」がある。何千年と長い歴史のある郷土料理で、イスラム教徒がラマダーン明けにも食べる栄養食だ。作り方は至ってシンプルで、いわば国民のソウルフードである。

正方形の皮に、炒めた肉や野菜、チーズを並べて、生卵を落とし、対角線で折って揚げるだけ。卵が半熟になるように揚げるのが、この料理最大のポイントだ。エビやツナなどのシーフードが具材に入るのも、海沿いの国ならでは。

ネパールのモモ

アテになるスパイシー蒸し餃子

ネパールでは街のあちこちにモモ専門店があり、「その良し悪しはタレの味で決まる」と〈スワタントラ〉店主の高瀬薫さん。沢木耕太郎の『深夜特急』でネパールに恋をし、5年のレストラン修業を経て帰国。開店して2022年で24年になる。

この店では、ゴマ、山椒、ミント、ショウガなどを加えたトマトソースがモモのお供だ。鳥と豚の合い挽きであっさりとさせた肉に、タマネギ、ニンニク、パクチー、ターメリックなどでパンチを効かせた餡。そこには香りを引き出すトリコテール(マスタードオイル)が欠かせない。しっかりとした味わいに酒が進む。

イタリアのチャルソンス

シナモン香る、甘じょっぱい変化球パスタ

イタリア東北部の山岳地帯、フリウリ地方で食べられてきた郷土料理「チャルソンス」は、イタリア人でも知らない人の方が多い。スパイスやチーズの行商人の妻が作り始めたパスタだけあって、シナモンやチーズが欠かせない。粗めの砂糖やクルミで食感を楽しみ、花を飾って彩るのも現地の女性の工夫だ。

辺境で肉を使うことが少なかった地域だから、中身はジャガイモがメイン。同じ地域でも谷ごとにレシピが微妙に異なるという食文化に魅せられ、〈ペペロッソ〉の今井和正シェフは現地の〈チャルソンス協会〉に直談判。その歴史を学んで帰ってきた。

中国の土豆餃子

異文化ミックスで唯一無二の黒餃子に

中国と北朝鮮の国境付近は、両国の文化が混在する特殊なカルチャーが息づいている。この延辺地方でしか食べられない「土豆(=ジャガイモ)餃子」は、冷凍と解凍を繰り返して粉状にしたジャガイモで生地を作り、キムチなどの具材を包んだもの。凍ったジャガイモが、独特の黒い色を生み出している。

昔は食材が乏しくなる冬の時期に作られた郷土料理だが、暮らしが豊かになった今では肉や魚も包まれるようになった。「延辺地方の料理は中国料理とも韓国料理とも違うけれど、どちらの国の人にも親しまれる料理です」と現地出身のオーナーは話す。