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YouTubeが映画監督を養成する?デヴィッド・F・サンドバーグ、ボー・バーナム論

今まで通りの手法でブロックバスターのような大作を作り続けるだけでは、アーティスティックなムービーをストイックに作るだけでは、大きな波に簡単にさらわれてしまう現代。何を創り、何を訴え、そして時代にどのように爪痕を残すのか。時代と闘いながらマスターピースを作ってきたデヴィッド・F・サンドバーグ、ボー・バーナムと、その作品について考えます。


初出:BRUTUS No.927「映画監督論。」(2020年1115日号)

illustration: Masaki Takahashi / text: Mika Hosoya

デヴィッド・F・サンドバーグ

私たちの暮らしに欠かせないYouTubeを足がかりに本格的に映画業界での活躍を始める監督は、これから増えていくだろう。DCコミックスを原作とする『シャザム!』の大ヒットで注目を集めたデヴィッド・F・サンドバーグはスウェーデン出身。

映画少年だった彼は学生時代から映画を撮影し、2006年にはYouTubeで作品を公開し始める。短編アニメのコメディ『Vad tyst det blev…』がいくつかの映画祭で受賞したことをきっかけに、映像の仕事のオファーが届くようになったというキャリアの持ち主だ。

アニメから一転、13年には短編ホラー映画『Lights Out』をYouTubeで公開する。爆発的な再生回数が話題となり、監督、プロデューサーとして『死霊館』シリーズをヒットさせたジェームズ・ワンに招かれてハリウッドへ。

この短編をベースにした『ライト/オフ』で長編監督デビューを果たし、以降『アナベル 死霊人形の誕生』『シャザム!』の監督抜擢というサクセスストーリーに繋がっている。短編アニメのコメディを手がけていた経験も、笑えるヒーロー映画『シャザム!』を監督するうえで生かされているはずだ。

コロナ禍での自宅待機中には、妻で女優のロッタ・ロステンと短編ホラー映画『Shadowed』を撮影してYouTubeなどで公開している。

『シャザム!』

『スーパーマン』『バットマン』のDCコミックスが生んだ異色のヒーローをザッカリー・リーヴァイ主演で実写化。友達を救うためヒーローとして目覚めていく姿が描かれている。“見た目はオトナ、中身はコドモ”がキャッチフレーズの愛すべきスーパーヒーロー、シャザムが真の勇気を見つける姿をユーモアたっぷりに表現。'19米。

『アナベル 死霊人形の誕生』

12年前に幼い娘を亡くした人形師とその妻が暮らす館に、孤児院から少女たちとシスターがやって来る。その館には不気味な雰囲気が漂っていて……。『死霊館』に登場する人形、アナベルが巻き起こす恐怖を描いた『アナベル 死霊館の人形』の続編。『死霊館』シリーズの生みの親であるジェームズ・ワンが製作を務める。'17米。

ボー・バーナム

一方、次々と良作を生み出す気鋭のスタジオとして日本でも認知されているA24とタッグを組んで青春映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』を監督した、ボー・バーナムはユーチューバー出身という経歴の持ち主だ。

ティーンの頃に皮肉なジョークを交えた自作の曲をYouTubeにアップして才能を見出された彼は、ミュージシャン、スタンダップコメディアン、俳優としても活躍し、この作品で映画監督デビューを果たした。

主人公は中学校卒業を前に“学年で最も無口な子”に選ばれたケイラ。家では毎日を素敵に変えるためのライフスタイルアドバイス動画を自分のチャンネルにアップし続けているが、再生回数はまったく伸びない。SNSを駆使してクラスメイトとコミュニケーションをとろうと頑張っているものの、空回りしている女の子だ。

バーナムはSNSとともに生きる主人公が、真の自分らしさに向き合うまでの姿を描き出した。新しい世代の青春映画に普遍的な輝きと痛みをもたらすことができたのは、バーナム自身がユーチューバーとしてキャリアをスタートさせ、ソーシャル・メディアの功罪を知るような様々な経験をしてきたからこそだろう。

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』

地味な自分を変えようとひそかに動画をアップし、SNSを使ってクラスメイトたちとの距離を縮めようとしている中学生のケイラが主人公。娘を見守る父親の思いも交え、新しい一歩を自分で踏み出そうとするヒロインのリアルを描き出す。詩人としても活動するバーナムが、自身で脚本も執筆。'18米。

『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』

パキスタン人男性とアメリカ人女性の異文化カップルの壁と絆を描いたコメディ。俳優としても活躍するバーナムが、スタンダップコメディアン役として出演している。このほかの出演作にスカーレット・ヨハンソンと共演した『ラフ・ナイト 史上最悪⁉の独身さよならパーティー』など。'17米。