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進化するドライ&ウェットの合いがけカレー8選 〜後編〜〈キッチンABC〉〈生駒〉etc.

世界一のカレー・ダイバーシティを誇る東京。ところが最近似たようなカレーも増え飽和状態となりつつある。ならばと新しい可能性を探れば、ドライ&ウェットの法則に行き着く。なぜか。店主の個性と“混ぜる意図”がよりハッキリと伝わるから。新旧織り交ぜ考え方の違う8皿を紹介。前編はこちら

photo: Susumu Takahashi / text: カレー細胞

キッチンABC(池袋)

オム“ドライカレー”ライスのカレーがけ。脳を刺激する味覚に隠された老舗の技

豊島区で1969年創業。〈洋庖丁〉〈ミトヤ〉など人気洋食店のルーツとしても知られる大衆洋食界の至宝。普通のカレーに飽き足らず、パンチを求めスパイシーな黒カレーを開発。ただ白飯と合わせるだけだと色合いがどうも良くない。そこで他店が真似できないものをと、黒カレーをオムライスにかけたのがABC名物オムカレーである。

わざわざ取り上げる理由は、オムライスの中身がなんとドライカレーだから!ライスを色々試した結果「カレーに勝てるのはカレーしかない」と掛け算のドライ&ウェットスタイルに至った。黒カレーのガツンとくるスパイシーさ、卵のホッとする優しさ、後からじんわりとくるドライカレーのピリ辛。この波状攻撃がなんとも心地よい。

ドライカレーはブイヨンで一気に炊き上げ、香りと辛さを均一にする独自製法なので、単体でも混ぜても味にバラつきがない。卵の引き算といい、「脳で覚える味でなきゃだめ」というABCの開発理念が生んだ珠玉の一皿である。

池袋〈キッチンABC〉オムカツカレー
オムカツカレー 980円/黒カレーのスパイシーさをオムライスの卵が和らげ、その後ドライカレーの辛さがじんわりと広がってくる。そこにカツをのせた人気メニューがオムカツカレー。カツカレーとしても、オムカレーとしても楽しめる。

生駒(錦糸町)

カレー×3の中華版濃厚カツカレー?

〈生駒〉の賄いメニューとして10年ほど前に生まれた「排骨カレー炒飯」はすべての要素にカレー粉を用いた夢の一皿だ。ラーメンに使う中華ベースに味噌、調味料、カレー粉を加え、片栗粉でとろみをつけたカレーは、スパイシーなのに軽やか。

一方、カレーによく絡むよう強火でパラパラに炒めたカレー炒飯と、衣にしっかりカレー粉をまぶしカラッと揚げたパーコーは、町中華らしい濃厚な味つけ。そもそも店主のカツカレー好きから生まれたメニューと聞くが、それどころではない強烈なパンチ力だ。

錦糸町〈生駒〉排骨カレー炒飯
排骨カレー炒飯 1,050円/炒飯に絡みやすいようカレーはあえて具材なし。すべてにS&B赤缶を使っており、トーンは揃っているが調理法や具材が違うので食べていて飽きない。

モンタナ(吉祥寺)

カリーつけ麺×キーマで雑炊感覚

もともとタイカレーやドライカレーを提供するカレーカフェだったのが2018年「カリーつけ麺」のお店へと変貌。理由は簡単「オーナーがラーメン好きだったから」。

一番人気の「モンタナカリープレート」はカリーつけ麺とドライカレーが一緒に楽しめるドライ&ウェットな一皿。濃厚魚介系のカレー汁、自家製ローストポークとつけ麺だけでも完成度は高いが、ドライカレーと合わせることでお子様ランチのようなワクワク感が広がる。ディレイ、ファズ等サウンドエフェクト名で辛さが選べるのも楽しい。

吉祥寺〈モンタナ〉モンタナ カリープレート
モンタナ カリープレート 1,430円/ライス、キーマ、卵黄と綺麗に積み上がったミニドライカレー。崩して食べるもよし、つけ麺を食べた後のカレー汁にライスごと投入してもよし。

欧風カレー ソレイユ(麹町)

潔い見た目と裏腹に、奥深い味の対比

カルデラ湖のごとくドライカレーは山の上に鎮座、麓にはカレーソース。この印象的なスタイルは店主が修業した欧風カレー店〈オーベルジーヌ〉で生まれ、今ではこの店だけのものだ。

フレンチの技法を駆使しつつも、2つのカレーの味と食感を大きく変えているのが面白い。外側のカレーソースは舌触り滑らか、毎日継ぎ足し味に奥行きを加えている。一方のドライカレーは野菜にリンゴを加えて甘酸っぱい仕上がりに。辛さはカレーソース側で選べ、両方を組み合わせることで味が自在に調節できるのだ。

麹町〈ソレイユ〉ドライカレー
ドライカレー 1,800円/まずは内側のドライカレー、外側のカレーソースを別々に楽しむ。その後ライスの堤防を崩し、ドライとウェットの味のぶつかり合いを楽しもう。