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神楽坂〈ドーナツもり〉二人三脚で手作り、揚げたて、アツアツの夫婦ドーナツ

都心に、夫婦で営むドーナツショップが2軒。片やフランス菓子由来のスイーツ要素たっぷりの仕立てで。片や、素朴なクラフト系をスペシャルティコーヒーやタップのクラフトビールと一緒に提供する。どちらの店もハッピー&ホット。これって、ドーナツのおかげ?それとも……。

photo: Yoichi Nagano / text: Michiko P. Watanabe

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フランス菓子の技術を駆使し、
ドーナツの新機軸を開拓中

神楽坂は坂の町だ。〈ドーナツもり〉もゆるやかな坂の途中にある。坂道をゆっくり上っていたら、ほんのり甘い匂いが漂ってきた。匂いは、物語から抜け出たような小さなかわいい家から来ているようだった。すでに少し行列ができていて、一度に1組しか入れないため、しばし待つことに。やっと中に入ると、アンティークのショーケースの中で、ドーナツがキラキラ光っていた。この店ならではの独特のグレーズが、美しい輝きを放っているのだ。

店主・森敬之さんはサラリーマンをしながら、お菓子の修業に励んだ。師匠はレジェンド的存在の凄腕パティシエである。その師匠と開発したのが〈ドーナツもり〉のドーナツだった。これが旨かった。イベントに出すと、あっという間に売り切れる大人気ぶりに、「当初、ドーナツ屋を開くつもりはなかったのですが、いろんな方に食べていただきたいと思うようになって」、師匠の店が移転するのを機に、建物はそのままに、その跡に2020年にドーナツ屋を開いた。

ショーケースの並べられたドーナツもりのドーナツ
師匠から譲り受けたアンティークのショーケースに、次々と商品が並んでいく。ディスプレイは妻・智実さんの役目。仕事が丁寧だ。

朝7時半、揚げ始める。揚げるまでに3日かけた生地だ。1日目に湯だねを作り、一晩熟成。2日目に湯だねから生地を作り、一晩、じっくりと低温発酵させている。

丸く穴が開いた、いわゆるドーナツ形の生地が次々に油の中へ。油はトランス脂肪酸フリーのオーガニックパームオイルだ。裏返すとき、ぽこっと浮いてくる様子がかわいらしい。ドーナツが冷めたら、作っておいたとろっとしたグレーズに浸す。甘い香りに誘われ、そのままぱくりといきたいところだ。

店主のこだわりは半端ない。「お子さんが食べても大丈夫なように、また、すっとおなかに収まるように」、生地にもグレーズにもできる限りナチュラルな材料を使用。例えば、生地に使う粉は国産強力粉ゆめちから、イーストはフランスの長時間発酵用のセミドライイースト、乳化剤を用いず、代わりに卵黄を多めに配合。グレーズにも使うバターは作りたてそのままのノンチルドバター、砂糖は国産のオーガニックシュガー、チョコレートは一流パティシエ御用達のベルギーの高級チョコレート、ピスタチオはシチリアで2年に1回しか収穫されないレアもの。

ジャムはフランスの伝統製法で煮た自家製……と、すべてに抜かりがない。さらに、「歯切れが良く、かつ、小麦の香りを感じられるように、生地に薄力粉を10%加えています。そのおかげで、油を吸いにくく軽く仕上がります」。

店主・森敬之さんと妻の智実さん
店主・森敬之さんと妻の智実さん。あ・うんの呼吸で開店準備が進む。夫婦善哉ならぬ夫婦ドーナツだ。

ドーナツは全部で3ジャンル。ふわもち食感のベーシックタイプ、3つのスパイスとサワークリームで仕上げた、さくっとリッチなオールドファッションタイプ、そしてベニエ。オリジナルグレーズはイタリア産オーガニックハニーとバター。スイーツ好きのツボを突く組み合わせだ。

あれ、消えたというくらい、食後感は軽やか。そしてまた、すぐ食べたくなる。いいな、ドーナツ。今日のおやつ、ドーナツに決まり!

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