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天文学で考えるドーナツ「宇宙はドーナツでできている」

ドーナツは、学問に一番近いスイーツである?天文学者の鳥羽儀樹さんは“ドーナツ”をどう考えるのでしょうか。

illustration: Yachiyo Katsuyama / text: Masae Wako

宇宙はドーナツでできている

地球の周りを月が回り、太陽の周囲を惑星が巡り、土星の周りには環が浮かぶ。宇宙はあらゆる円で構成されているが、真ん中に「穴」のあるドーナツ形を内包するのが、例えば我々の住む銀河系だ。

「穴とはブラックホールのこと。大掴みに言うと、強烈な重力で周りのすべてを吸い込んでしまう小さな天体です。宇宙に存在する銀河は、銀河系も含めて1000億個以上。それぞれの中心に1個ずつの超巨大ブラックホールがあると考えられています。今は“一銀河に一個、超巨大ブラックホール”の時代なんですね」

国立天文台で銀河やブラックホールの研究をしている鳥羽儀樹さんはそう語る。

「超巨大ブラックホールは小さくても太陽の100万倍、大きいと10億倍の質量を持つと言われています。光さえも吸い込むため、姿を見ることはできませんが、唯一、ご飯を食べる、つまり周囲のものを吸い込む時だけ摩擦熱でぴかぴか光る。そのご飯がドーナツです。ドーナツとは、ブラックホールの周囲に浮かぶ塵やガスのことで、ダストトーラスと呼ばれます」

近くのものは即座に吸い込むブラックホールも、重力が及ばぬ距離のものは吸い込めない。ゆえに穴の周りは無となり、その外にドーナツができるのだ。ドーナツの内側も徐々に引き込まれて、減った分はドーナツの母体である銀河から補給される。

「近年までダストトーラスは、滑らかなプレーンドーナツ形だと思われていましたが、最近はポン・デ・リングのように粒々した形だろうという説が主流です。といっても、その姿を見た人はいないのですが」
ダストトーラスは極めて小さいため姿を見る手段がなく、明確な成り立ちも穴の大きさもわかってはいない。けれど私たちが空を仰ぐ時、宇宙には確かに“見えないドーナツ”が浮かんでいるのである。

「現在、国立天文台が造っている口径30mの超大型望遠鏡TMTが完成すれば、ダストトーラスを見ることができるかもしれないと言われています。姿が見えれば宇宙に浮かぶドーナツがいつどうやって生まれたのか、“ドーナツの作り方”の謎が解ける可能性もあるわけです」

そんな日を夢見るのは悪くない。何しろ私たちは、今この瞬間もブラックホールの周りを回りながら、見えないドーナツと一緒に銀河系をつくっているのだから。

勝山八千代 イラスト