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辛旨の味作りを訪ねて。妙高「かんずり」、八丈島「島とう醤油」

南北に長い地理的特性などから、地域ごとに多様な食文化が育まれた日本。各地に根ざす辛くて旨い一品も多い。昔ながらの伝統食もあれば、地元食材の活用を目指すいまどきな調味料も。新旧織り交ぜた辛旨な味を揃えました。

初出:BRUTUS No.782「辛いから。旨いから。」(2014年7月15日発売)

photo: Tadayuki Aritaka / text: Ai Sakamoto

新潟県/妙高の「かんずり」

3年の歳月が辛旨に深みをもたらします

真っ白な雪の上にまかれた真っ赤な唐辛子。一幅の絵のようにも見える光景はかんずりの雪さらし。毎年、大寒の頃、妙高で見られる風物詩である。「かんずり」とは、同地に古くから伝わる発酵調味料のことで、上杉謙信が兵糧としたという記録も。かつては雪深い農閑期に作られる保存食で、それぞれの家庭には手前味噌ならぬ、“手前かんずり”があったという。

「伝統の味を残そうと商品化したのが、当社の《かんずり》です。試行錯誤の連続で、開発には7〜8年かかりました。1958年に発売してからも売り上げが伸びず、やめようと思ったこともありますよ」と有限会社かんずりの2代目社長・東條邦昭さんは笑う。

《かんずり》の製造にかかる期間は、約3年。まずは契約農家で栽培された3種類の唐辛子を塩漬けし、1月頃、3〜4日かけて雪にさらす。それによりアクや塩分が抜け、マイルドになるのだという。雪さらしを終えた唐辛子は米麹、ユズ、塩などと仕込まれ2年間、樽の中で発酵・熟成。年に1度の手返し(攪拌(かくはん)作業)と寒ざらし(3年目の初雪が降る頃、屋外に樽を置き味を引き締める)を経て、完成する。

農家の高齢化に伴い、2011年からは直営唐辛子団地での生産も始めた同社。「近い将来、唐辛子による村おこしとして、かんずりレストランの企画も考えています」(東條さん)。進化を続ける北国のスローフードがここにある。

東京都/八丈島の「島とう醤油」

島の食文化を映し出す一本を作りました

「島唐辛子は、実が上向きにつくのが特徴。いまは時期がまだ早いから、全然辛くないよ!ほら食べてみて!」

《島とう醤油》を製造する八丈島フィッシングクラブの久保田仁之さんに促され、穫ったばかりの島唐を恐る恐るかじってみる。脳天を直撃する辛さに思わず身もだえ。八丈島育ちは人も唐辛子もパンチが効いている。

東京から南へ287km。ここは三原山と八丈富士2つの火山が合わさってできた八丈島。かつてワサビを入手しづらかったこの島では、その代替えとして刺身に青唐辛子をつけて食べる習慣がある。「みんな自分の家から持ってくるよ(笑)。生がない時期はマイ一味を持参だしね」というから驚く。

久保田さんが、醤油に島唐辛子を漬け込んだ《島とう醤油》を手がけ始めたのは2001年。島の名産品を作ってほしいと土産物店に依頼されたのがキッカケだったという。いまでは、島内に10ヵ所ある自社農園で島唐を無農薬栽培。そこで穫れた島唐に醤油、島ニンニク、島ショウガ、味噌を加え6時間煮詰めて《島とう醤油》を作る。仕込んだ醤油は1年以上熟成。そうすることで爽やかな辛さの中に、程よいコクと旨味が詰まった一本になる。

「うちはすべて手作業。一本一本手詰めしてますからね、大変です(笑)」と言いつつも、今では年間2万本を販売。東京から近くて遠い八丈島の食文化のPRに一役買っている。

八丈島の「島とう醤油」を瓶詰めする様子
一本一本丁寧に瓶詰め。