とんかつにかけるソースは、ウスターか中濃か、それともとんかつソースか。事の発端はそんな話から。「中濃一択でしょ」と言った東京生まれのライターに、上方生まれのライターが異論を唱えた。「家の冷蔵庫には、ウスター、とんかつ、お好みソース取り混ぜて少なくとも3本。そもそも中濃って何？」。
関東では誰もが知るブランドが西日本では馴染みが薄かったり、逆に関東のスーパーで見かけないメーカーの品が、名古屋では一番だったり……。これほどソースをめぐる事情が奥深いものだとは！というか、これほど日本の各地で様々なソースが作られていたとは！ならば、これは実際に味わってみるしかあるまいと立ち上がったのが、とんかつ大好きフードライター2人。
日本各地からおいしいと評判のソースを取り寄せ、揚げたてとんかつにかけてつけてテイスティング。こうして出来上がったのが「甘い／酸っぱい×スパイシー／まろやか」のマトリックス。あくまで今回2人が試した中での位置づけであり、ごく個人的な味覚によるものではあるが、これほど味わいに個性があったとは。この結果がソース選びに迷う自宅とんかつ派の参考になれば幸いです。
日本各地の気になる味を食べ比べ
（1）ツヅミ食品 ツヅミ いちじくソース
南河内のイチジクがたっぷり／甘さで知られる地元特産のイチジクにトマトや大阪産のタマネギなどを合わせ、さらにセージやクローブなど10種ほどのスパイスをブレンド。フルーティだがキリリとスパイシー。ラードで揚げたコッテリ系にも。手作り＆材料稀少なため本数に限りあり。
（2）中間醸造 テングソース 半とんかつ
広島でも知る人ぞ知る地ソース／少々強面（こわもて）な天狗面のラベルが目印。広島県三原市周辺で流通する超ローカルなソース。かけた瞬間、色の濃さに驚くが食べてみれば、濃厚な甘味とコクが広がり、複雑なスパイス感が追いかけてくる。イベリコ豚など旨味濃厚なとんかつに負けない力がある。
（3）森彌食品工業 ブラザーお好み とんかつソース
レトロなロゴが目印の万能ソース／昭和25（1950）年に神戸で創業。阪神・淡路大震災での工場全壊を乗り越えて、今なお地元に支持され続けている。まずは甘味が感じられ、そこに適度な酸味とスパイシーさも加わる。この甘さとスパイシーさは軟らかい肉質のヒレカツにぴったりだ！
（4）月星食品 手造り ナチュラルフルーツソース
味の決め手はトマト＆パイナップル／創業百二十余年を経て、今も職人が手仕事で仕込むソース。口にした途端感じるのはトマトやフルーツの濃厚な旨味。パイナップルやリンゴの華やかな香りが広がるが、甘味はやや抑えめで、とんかつの肉の旨味を引き立てる。繊細な味わいのヒレもおいしく。
（5）オリバーソース 特級とんかつソース
世界初のとんかつソースを開発／とんかつソースの原点ここにあり！同社が開発した濃厚ブラウンウスターソースは「とんかつソース」という名前で世に送り出され、全国へと広まっていった。フルーティな甘さとコクがあり、バランスがよいから、どんなタイプのとんかつにも合う。
（6）コーミ コーミデラックスこいくちソース
中京エリアじゃ一家に一本／八丁味噌など濃厚な旨味が好まれる中京圏のナンバーワンブランド。タマネギやトマトなど野菜の旨味を凝縮し砂糖やビネガー、塩などで味を調えたソースは「こいくち」なのに塩分控えめ。カラメルの独特な風味が後を引く。脂も美味なロースカツがますます旨く！
（7）ブルドックソース ブルドック 中濃ソース
これぞ東日本のスタンダード／香辛料は自社挽き・自社ブレンド。添加物を一切加えない自然な味わいが、関東以北を中心に広く愛される。まろやかさとほどよいスパイシーさを兼ね備えたソースの質感は、とんかつソースとウスターの中ほど。どんな部位も衣も迎え撃つ守備範囲の広さ。
（8）オジカソース工業 復刻版オジカソース
京都の老舗が守り続けるレシピ／大正7（1918）年に祇園で創業。その当時の味とラベルを再現した。一般的なソースと違い、透明感のある薄めの色だが、11種類のスパイスと酸味が効いている。赤ワインやアンチョビも加わり、独特の存在感がある。甘味のある脂がのったロースカツに合う感じ。
（9）大黒屋 大黒フルーツソース
フルーツの酸味を効かせた強い味／大正12（1923）年の創業から、地元のお好み焼きや串カツ店で愛用されている本格派ソース。リンゴをベースに果物や野菜をふんだんに使い、各種スパイスを加えてじっくり煮込むことで酸味も引き出す。パンチの効いた濃厚な味。カツサンドのソースに合わせたい。
（10）阪神ソース 敬七郎
創業者の名を冠した自信の味／明治初期「神戸にはおいしい肉があるのに、なぜ日本においしいソースがないのか？」と疑問に感じた創業者が研究を始めた同社。これは明治30（1897）年頃のレシピを基に、厳選素材で現代風に再現。スパイシーさと酸味があり、キャベツの甘味も際立たせる。
（11）チョーコー醤油 金蝶ソース ウスター
酸味と辛味が料理の味を引き締める／長崎県民にとって皿うどんに必須のご当地ソース。リンゴにトマト、タマネギ、ニンニク……。香味野菜や果物が醸すしっかりした酸味と20種以上の香辛料によるスパイシーな辛味が、とんかつをキレのある味に。揚げたてをジュッとひたしてソースカツ丼にしたい。
（12）オタフクソース オタフクお好みソース
甘くてまろやかな広島の味／たっぷりの野菜、果実にデーツを加えたソースは、甘くてコクがあるけれど後味すっきり。まろやかな味わいの奥にスパイスが感じられる。お好み焼きに合うソースだが、この味わいはたっぷりの千切りキャベツを一緒に挟んで、カツサンドのソースにも。
（13）ツバメ食品 ゴールドソース
香り高き、大人のウスターソース／昭和5（1930）年創業当時のレシピを守りながら、手作りを続ける京都の老舗メーカー。複数のスパイスを粉末ではなく原形のまま使用することで香りを最大限に生かし、透明感あるスパイシーさを実現。素材の旨味が感じられる。ロースとヒレ、どちらもいけそう。
（14）ヒロタソース うすたーソース はんなりラベル
京風味の上品な万能ウスター／京文化と洋風のソースが融合した“京風味ソース”を実現した「はんなりシリーズ」。昔ながらの製法を守り、スパイシーな煮汁をベースに、野菜などの旨味成分をたっぷり加えて熟成させている。だしのような風味も感じられ、カツの卵とじにかけたい。
（15）金紋ソース本舗 とんかつソース
「一日一釜」で作る、なにわの味／大のソース好きだった創業者が自分の手で好みの味を作りたいと昭和8（1933）年に大阪で創業。現在は3代目が釜の前に立ち、「一日一釜炊き」で門外不出のレシピを守る。上品な甘さとまろやかさを兼ね備え、肉厚なヒレにしっかり絡ませて食べたい。
（16）紀州農業協同組合 tomato-umeだれ
トマト＋梅干しで旨味倍増／梅干しの産地、和歌山の農協の自信作。果肉たっぷりの完熟紀州南高梅と、地元の高糖度ミニトマト「優糖星」を合わせてタマネギやバジル、リンゴで酢味を調えた。トマトの豊かな旨味と爽やかな梅の風味のおかげで、とんかつの世界に新たな扉が開けた。
（17）ナカモ つけてみそ かけてみそ
どえりゃあうみゃあ味噌ダレ／これ一つで、ごく普通のとんかつが名古屋名物の味噌カツに化けた。天保元年創業の味噌蔵が作るタレは、じっくり寝かせた豆味噌ベース。とろりと濃厚なテクスチャー、深いコクと上品な甘味、ほのかに香るゴマは、名古屋人ならずとも胃袋と心を鷲掴（わしづか）みにされる。
