60年間、エバミルクで炊き続ける、大きくてもいけるミルキーな味
誕生して六十年余。変わらぬ佇まいで人気を誇る老舗洋菓子店のシュークリームは、おっきくて、ずしりと重い。その人気の一端を担うカスタードクリームの秘密を、商品開発の金子博文さんが教えてくれた。
「当時はまだ、冷蔵設備が整っていなかった時代。クッキーを作るために牛乳代わりに使った、保存の利くエバミルク(無糖練乳)でクリームを炊いたのが始まりだそうです」
時代が変わり、エバミルクが一般的ではなくなったいまも、牛乳は使わない。このクリームのためだけにエバミルクを製造してもらい、それをミネラルウォーターで稀釈して、卵黄、薄力粉、砂糖、バターとともに炊き上げているという。
「一般的なクレーム・パティシエールに比べて、卵黄の配合自体も少ないので、卵より、ミルクの風味がより感じられると思います。逆にシュー皮は、卵の配合が多いので、ふっくら大きく膨らむんです」
ちなみに金子さんの実家は、小さなシュークリームを作って卸す菓子屋で、そばには、いつもカスタードが入ったアルミのたらいがあったのだとか。長じて菓子職人になり、国内外のフランス菓子店では、正統派のパティシエールも炊いてきた。
「だからよくわかるのですが、うちのクリームは本当に重たくない。大きなシュー皮にパンパンに詰まっていても、食べ切れるんです」
シュー皮が思いのほか膨らんでしまっても、隙間は作らない。クリームはあくまでぎっしり詰める心意気もまた、守り続けている伝統だそう。