ライフスタイルが変化する今日、最高の時間は人それぞれ。誰かの“とっておきの過ごし方”や、“生活の知恵”を知ることで、豊かな明日につながる。サントリー ザ・プレミアム・モルツの情報サイト「みんなでつくろう!#最高の時間」と、「BRUTUS.jp」のコラボレーション記事では、アーティストやクリエイターにとっての「最高の時間」にフォーカスを当てる。「学ぶ」「聞く」「味わう」「遊ぶ」「見る」の5つのテーマから、話を聞いてきた。
第5回は、舞台作家で写真家の三野新さん。「写真を撮って写真集をつくる」という写真家としての活動を、自ら演劇に仕立てて舞台でも上演するなど、ユニークな活動で注目されている。そんな三野さんは今年の春、〈海老名芸術高速〉なるアトリエ兼シェアハウスをつくりあげた。場所は神奈川県海老名市で、もともとの建物は米軍の寮。建築家、舞台役者、ダンサー、映画監督など、三野さんを含めた数人が集合し、この建物で共同生活をしながらプランを練り、自分たちの手で設計しリノベーションした空間だ。
「家をつくるという目的のもとに集まったコミュニティの中で、僕もみんなも“今回の役割”みたいなものを感じながら、ものづくりをしていた気がします。それぞれの生活や創造活動の中に、“空間のアイデアを考える”とか“床に漆を塗る”という、イレギュラーな役割が入り込んでいた。すごく楽しかったし発見もありました。今って人間関係で窮屈な思いをしている人も多いと思うんですが、妄想でいいので、自分に新しい役割をつけると少しラクになるんじゃないでしょうか。実際はやんちゃな生徒に手を焼く先生だけど、実は人気バンドのリーダーなんだ(妄想)とか。今日は猫だから何もしないよ!とか」
制作も生活も自由な発想で捉えている三野さんにとって、5つの「最高の時間」とは。
「自分と他者の距離感、自分と制作物の距離感みたいなものをぐるぐると考え続ける時間が、楽しくもあるし葛藤でもあります。そんな時の助けになるのが、東松照明や中平卓馬など1960~70年代に沖縄を撮った写真家の写真集。彼らが感じていただろう、文化やアイデンティティにおける沖縄との距離感を、興味深く読んでいます。最初は外の人の視点、つまりジャーナリズム的視点だったのが、だんだん身近な植物とかに目を向けるようになったりしてる、そういう距離感の変化も学びになるんですよね。沖縄で生まれ育ったリアリズムの写真家・山田實(みのる)との違いも面白い。写真を撮ることは、距離感を可視化する作業なんだなと気づくきっかけになりました」
「僕、ただ見るだけでは目の前の光景をわかり足りないし、覚えていられないんです。だから、記憶にとどめておきたいものを記録するために写真を撮る。その際に必要なのが、その場の匂いが僕の中にうみだす感情や質感で……というような、“見る”をとりまく感覚や行為を、写真集(『クバへ/クバから』)という形で表現したことが自分にとって大事なことでした。ベースにあるのは沖縄や福岡の写真。それを写真集として編集する過程のすべてを、演劇にして上演しました。さらに、その舞台のためにつくったドローイングや戯曲も素材にして再編集。つまり、写真集だけど集団制作した仮設的劇空間でもある。ページを開けばいつでも現在進行形の上演が始まり“最高の時間”となるはずです」
「制作作業中に聴くのは、バリバリの90年代J POPかバリバリの現代音楽。J POPはド直球のミスチルとかB’zとかキリンジとかですね。90年代ものってすでに自分の体の中にインストールされているので、それを再放送しながらじゃれ合う感覚というか、無条件にノレる快楽というか。僕はマジメなので、初めての曲だと“この音はどうつくられてるのか”などと構造的に考えてしまうのですが、そうならずに済む。現代音楽は、自分にとって距離を生んでくれるという点で、心地よく聴けるジャンルです。最近好きなのは網守将平の新しいアルバム『Ex.LIFE』。ピアノ中心の電子音楽で、メロディがとても良いんです。過剰なのにうっかり励まされちゃったりもするB’zとは違う意味で、制作の助けになっています」
「喫茶店のナポリタンのあの味と匂い、抗えなくないですか? 僕が確実に100回以上つくってるのが大学の時のバイト先で店長に教えてもらったナポリタン。つくり方もタイミングも体にしみついてるから、頭を使わなくても最高の味がつくれるんです。ポイントは、ニンニクを炒めるのにバターを使うことと、粗びきのソーセージを使うことと、ケチャップ多めでナポリタンみをしっかり出すこと。醤油と酒と仕上げにコショウいっぱい。しゅわしゅわ系が似合うのでビールかサワーがあれば最高です。ステイホームの期間は自炊が増えましたが、個人商店を応援したくてテイクアウトすることも多くなりました。料理することと味わうことに対して、興味と意識が全般的に高まった感じですね」
「テニスが面白いのは、ソーシャルディスタンスをきっちり保った状態でコミュニケーションがとれること。ステイホームになってから運動したい欲が俄然高まって、今はテニススクールに通ってます。お互いに近づけない状態なんだけれど、同時に笑い合える瞬間もあったりして、相手との間に言葉とは違う確かなコミュニケーションが存在する。絶対的な距離のもとに、それでも一緒に何かをつくりあげていくところは、演劇における観客と演者の関係にも通じる楽しさです。そういえば敬愛するジャン=リュック・ゴダール監督が大のテニス好きなんですよね。僕もいつか、テニスの映像や写真作品をつくりたいと思っています」
現在は建築家などが入居しているほか、広い共有スペースをクリエイターたちの制作アトリエとして活用している〈海老名芸術高速〉。「いずれはここで体験型イベントも開きたいし、演劇も上演してみたい」と話す三野さんに、最高の時間を過ごすルールを聞いた。
「一つの正解をもとめて合理的にものごとを進めるのじゃなく、消極的な決定ができる環境にしておきたいなあと、最近すごく思います。消極的な決定というのは、家族や友達や仕事仲間など、周りの人と一緒に悩みながら、余白のある決定をするってことですね。“まあ、いいか。ダメでもやむなし”も、“とりあえず保留ね!”もあり。気持ちの余裕が必要です。そういう意味で、“学ぶ、見る、聞く、味わう、遊ぶ”に、“眠る”がオプションであったらうれしい。最高の時間には休息も欠かせないと思います」
#01 dodo(ラッパー)
#02 上坂すみれ(声優)
#03 桑島智輝(写真家)
#04 丸山ゴンザレス(作家・ジャーナリスト)
#06 AAAMYYY(ミュージシャン)
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