ユーミンの歌詞はこうして生まれた
日本のポップス史に巨大な足跡を残してきたユーミン。その作風、ことに作詞論についてはこれまでも本人がたびたび言及してきたが、個々の楽曲が出来上がるまでの具体的なプロセスについてはあまり語られることはなかった。創作しているときの姿を「鶴の機織り状態」などと冗談めかして語っていたぐらいである。
その作詞術の秘密、名曲が誕生するまでのプロセスの一端を垣間見られる展示が、現在、六本木の東京シティビューにて開催中の『YUMING MUSEUM』だ。過去最大規模のアーカイブ展とあって、荒井由実時代の実家の部屋を再現したパート、華麗なステージ衣装の数々など、見応えある展示の中でも、特筆すべきは本人いわく“女学生変体文字”で書かれた、手書きによる歌詞が展示されていること。幾度も修正を施した跡もそのままに、時には執筆された年月日や場所、譜面やコード、アイデアのメモまで添えられている。
「雨の街を」は完成形とは言葉の配置が異なっていたり、「あの日にかえりたい」の原型詞に「あの日の私に」という仮題がついていたり、「翳りゆく部屋」の基になった「マホガニーの部屋」らしき歌詞も。名曲「DESTINY」は、“どうしてなの”と“今日にかぎって”の並びが、当初は逆だったことまでわかる。
未発表作品の展示に加え、提供曲では、かんせつかずの「一人芝居」や、デビッド&ミッシェル「いま何時?」など、相当なファンでも知らないような曲の直筆歌詞まで残されている。最新作『深海の街』の作品も、修正に修正を重ねた様子がわかるうえ、個々の修正前バージョンを脳内で歌ってみると、だいぶ印象が違うのだ。
「会った」を「会えた」に変えただけでも、音の響きから意味まで変わる。徹底した試行錯誤の末に、あの名作たちが生み出されるのだと、改めて稀代のシンガー・ソングライターの仕事ぶりに敬服するばかり。