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作家・乗代雄介の「私の食堂、私の一皿」。〈フライング ピッグ〉の3種のチーズinハンバーグ+ヨーグルト粒マスタードソース

洋食には「おいしい」や「好き」だけではない思い出や物語があります。あの人は、どんなメニューが好きなんだろう。洋食を愛する作家・乗代雄介さんにお気に入りの食堂と一皿を綴ってもらいました。特別な一皿をどうぞ。

photo: Akira Ishiwatari / edit: Hikari Torisawa

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千葉・松戸〈Flying Pig〉の3種のチーズinハンバーグ+ヨーグルト粒マスタードソース

寄稿・乗代雄介

小学生の頃、塾へ行くために自転車で上った坂道。大人になって、その中ほどに〈フライング ピッグ〉ができた。塾へ行くには遠回りなのだが、坂を上って市役所前を過ぎ、反対の坂を猛スピードで下るのが好きで、遅刻の時でも必ず通った道だ。そのせいか、初めて訪れた時、店の前で待ち合わせた母の顔を見て、何かギクッとするところがあった。

看板メニューは合鴨と鹿児島県産美湯豚(びゆうとん)の合い挽きハンバーグ。愛らしいブタの写真や雑貨でお洒落に飾られた店内は、テーブルクロスの赤白のギンガムチェックがどこか懐かしくて落ち着く。

選べるいくつものハンバーグに、ソースも4種類。沢山の組み合わせから好みを見つけたいけれど、最初に食べたオススメの組み合わせが立ちふさがって進んでいない。3種のチーズinハンバーグにヨーグルト粒マスタードソースだ。ナイフを入れ、軽やかな肉汁とチーズが溶け出すのに見とれる。

目にも鮮やかなソースをたっぷりからませるほどに口の中で肉の旨味が際立ってくる理由は私には全然説明できないが、とても美味しい。洋食には「美味しい」という言葉がよく似合う。「うまい」だけでは満たされない気分があるから。

そういうのは、猛スピードで自転車を乗り回していた頃の自分にはちょっと難しかったよな。お店の方に見送られ、あたたかな気分で懐かしい道へ出るたびにそんなことを思う。帰りの坂は、なるべくゆっくり下ることにしている。(筆)

千葉〈Flying Pig 〉の3種のチーズinハンバーグ+ヨーグルト粒マスタードソース
銘柄豚と合鴨で作るハンバーグが6種類2サイズ。ソースは4種から選べる。写真は160g。昼はセットで1,400円、夜は単品1,600円。

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