兵庫・神戸三宮〈欧風料理もん〉のサンドウイッチ(ビーフカツ)
談話・松本隆
ちょうど10年前。飯友(めしとも)に連れられ、初めて〈欧風料理もん〉を訪れたのは。昼にロケ弁を食べた後なのに、ビフカツサンドがおいしくってスルスル食べちゃった。肉の断面が厚いのに軟らかくて、すっと歯が入る。神戸牛のフィレを使って2000円台前半とは、満足度が高いよね。
神戸という街には、ブランド牛をウリにする店が多い。でも異常な値段だから、地元の人は誰も行こうって言わない。高いお金を出さなくても、普通の店の肉料理がおいしいんだから。この店のビフカツサンドがそれを物語っている。ビフカツそのものが好きでね。子供の頃はトンカツしか知らなかったから、大人になり「牛にもカツがあるんだ」って、ちょっとワングレード上がった気分になった。
初めて味わったのは20代の頃、恵比寿の〈キッチン・ボン〉で。美空ひばりさんや司葉子さんなど、すごい方たちに愛されていた洋食屋。僕も毎週通ったことがあったけれど、その店はもうないんだ。東京は家族で営む店がどんどん減り、チェーン店だらけになった。それもきっかけの一つで、神戸に移住したの。
歴史あるところには文化も残るし食も豊か。〈欧風料理もん〉のような店は大事にしないといけない。今は大ママのお孫さんが後を継いで、4代続いているのはすごいこと。家族の絆の強さを感じる。店内は、昔ながらの調度品を配したインテリアが質実剛健。ここの飾らなさは、〈もん〉の料理すべてに同じことが言える。つまり、おいしくて強い店には物語を感じるよね。(談)