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なぜ、餃子は世界中に存在する?愛される秘密を三賢人が語る

なぜ餃子は世界中に分布し、こんなにも愛されるのか?その理由を地球規模で再検証。食べ歩きのプロ、郷土料理研究家、旅するシェフという三賢人による餃子愛♡鼎談(ていだん)!

illustration: Nao Hashibiro / text: Yoko Fujimori

中国王朝かモンゴル帝国か、はたまた古代メソポタミアか。小麦粉の皮で具を包んだもの=日本名でいう餃子は、あまりに普遍的な存在のため、発祥の場所も時代も諸説ある。ユーラシア大陸を横断する壮大な餃子ロードに加え、大航海時代にスペイン・ポルトガル人によって新世界へもたらされたとされる海路ルートもまた、歴史的ロマンに満ちている。

確かなのは、土地ごとの特産物を包み、思い思いに成形した餃子は究極の“ご当地料理”であること。世界の国民食を俯瞰で眺めれば、地方性や文化が見えてくる。餃子は歴史の代弁者なのだ。

塚田亮一

本日は餃子で世界を語るという、壮大なミッションですが。

青木ゆり子

まず郷土料理の歴史から申しますと、“餃子的なもの”は紀元前6世紀頃に中国東北地方から発祥し、1200年代のモンゴル帝国の勢力拡大とともにユーラシア大陸の西の方に伝播したという説が一般的かと。もちろん諸説ありますが。

本山尚義

モンゴルのボーズ(小籠包のような伝統的な蒸し料理)がジョージアに渡ってヒンカリになる。

青木

ええ。モンゴル人や中央アジアに住むチュルク系民族は遊牧民だったので、彼らが羊を連れて西に移動しながら伝えたといわれています。

塚田

確かにウズベキスタンやカザフスタン、アフガニスタンの一帯には「マントゥ」がありますよね。

青木

そうなんです。で、もう一つが大航海時代。スペイン・ポルトガル人が南アフリカのケープタウンを経由してインドに到達するルートを発見し、キリスト教の布教や植民地化とともに各地で食べ物を伝えた。

本山

それがマレーシアのカレーパフや、フィリピンや中南米のエンパナーダ的なものになる訳ですか。

青木

ええ。潮の流れは人の流れ、人の流れは食の流れ。世界史と照らし合わせると面白いですよね。

餃子は偉大な保存食にして最強のご当地料理である!

本山

僕、個人的には小麦粉の生地で何かを包んであれば餃子と呼んでいいはず、と解釈してるのですが。

塚田

同感です。餃子は誰もが作れる庶民の食べ物なので、口承で伝えられて文献があまり残ってないんです。もともとは保存食ですしね。

青木

チュルク系民族の人たちも氷点下の中で凍らせて持ち歩き、ゆでていたそうですよ。お湯を沸かせば食べられる、保存食としての便利さ。

塚田

そして餡に“地のもの”を使うから、土地の個性が表れる。

青木

モンゴルは羊肉ですが、カザフスタンでは馬肉の餃子もあります。インドはベジタリアンが多いので豆をよく使う。世界では宗教上の理由などで肉を食べない人も多いので、豆やチーズもポピュラーです。

塚田

そう。モンゴルから南下して中国の山東省あたりまで来ると豚肉になり、大連などの沿岸部は魚介になる。サワラやサバ、貝類とか。タレやソースも、トルコのようにヨーグルトをかけるのは中央アジアの特徴ですね。ヨーグルトも乾燥すれば保存食になりますし。

本山

中央アジアで餃子とヨーグルトが出合うのは面白いですね。さらに西へ行くと生地の材料に卵を入れるようになり、パスタやパイに近づいていく。あと、モンゴルではボーズを作れたら一人前とか、ネパールではモモを上手に包めたらいいお嫁さんになれるとかいうそうですよ。

青木

トルコのカイセリという町では、マントゥのサイズがすっごく小さいんです。一粒が小さいほど手先が器用だと評価されるそうで、餃子作りは花嫁修業的な要素でもあったのでしょうね。

塚田

そうかもしれません。ちなみに皆さんは海外で印象に残る餃子体験はありますか?僕は北京にある北朝鮮の国営レストランで食べた、黒い蒸し餃子「土豆餃子」が衝撃的でした。皮がジャガイモのデンプンでできているのですが、想像以上に真っ黒&プルプルで。

青木

私は中国・西安の名物料理「餃子宴」かな。いわば餃子のフルコースで、有名店の〈徳發長〉はなんと300種類以上もあるんです。

本山

それ、とても食べ切れないですね(笑)。僕はネパールに半年ほど滞在していた時に、知人家庭のモモパーティによく招かれたのですが、皆さん手さばきが本当に素晴らしくて。餡はバフ(水牛)の肉が多かった。お礼に日本の焼き餃子を作ったら、すごく喜んでもらえました。

地球上に存在するという“餃子空白地帯”とは⁉

青木

こんなに世界中に浸透していますが、実は“餃子空白地帯”もあるんです。その一つが太平洋のオセアニア一帯。主食がタロイモの国々です。アフリカ大陸ではサハラ砂漠の南側もあまり見当たらないです。

本山

そういえば、青バナナやキャッサバを主食とする東・西アフリカや、あと東南アジアでもあまり見かけないかも……!

塚田

なるほど、赤道のコーヒーベルト地帯は餃子空白地帯でもあったんですね。余談ですが、日本のご当地餃子って「豚肉、キャベツ、ニンニク」という基本の餡に特産物を入れただけのものがまだまだ多いんです。でも、作り手の方が世界各地の餃子を食べて既成概念が広がったら、その特産物を主役にした画期的においしい餡を作るとか、もっと面白いものができそうな気がします。

本山

確かにそうですね。僕は帰国後に神戸に開いたレストランで韓国のマンドゥやロシアのペリメニなど11種類の餃子を出す『餃子フェア』をやったのですが、チュニジアのブリックが一番人気でしたよ。ちなみに僕が世の中で一番好きな餃子は高校時代から通う神戸市東灘区の〈餃子の王将 御影店〉ですが(笑)。

青木

やはりね、小麦粉で包めばシンプルにおいしいですし、餃子は食べると幸せになる。世界に広まった理由はこれに尽きると思います。

本山

集まって作ってシェアして食べる。こんなにコミュニケーションが生まれる食べ物、そうないかも。

塚田

ですよね。そもそも字が「食べて交わる」ですから!

青木・本山

なるほど!(笑)