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松丸契が案内。ジャズから拡張する新しい音楽が聴けるベニュー in 東京

世界的にも類を見ないほど充実する東京のジャズライブシーンは実験的な場所も誕生中!今要チェックのベニュー=ライブハウスとは?サックス奏者の松丸 契さんに案内してもらいました。

text & edit: Katsumi Watanabe

下北沢のライブハウスから、新しい音楽が生まれてくる

世界的にもジャズミュージシャンにとっては恵まれたライブシーンが育まれている東京。正統派なジャズクラブを飛び越え、ミュージシャン同士が、ジャズから広がり、新しい音楽を生み出している。そんな刺激的なシーンの最先端にいるのが、サックス奏者の松丸契。

石若駿やマーティ・ホロベック、細井徳太郎とのSMTK、作曲家・シンガーソングライターの石橋英子や、ヒップホップグループDos Monosとの共演。そしてソロ演奏による『独奏』シリーズなどを通して、常に新しい音楽を制作している。「東京で、今一番面白い音が聴けるライブハウスやお店は?」と質問し、名前を挙げてもらったところ、自然と下北沢に集まっていることがわかった。まずは、70年代からのアンダーグラウンド・ミュージックの聖地が、今どんな魅力を持っているのか聞いてみた。

「下北には、やりたいことや意志を持っているミュージシャンを受け入れてくれるハコが多く、クリエイティブな音楽が生まれる土壌になっていると思います。まずは〈No Room For Squares〉。2019年にオープンしたばかりの頃、トランペッターの曽根麻央さんから、ご主人の仲田晃平さんを紹介していただき、出演するようになりました。開店当初は、禁酒法時代のスピークイージーみたいな隠れ家的レコードバー(兼ジャズ喫茶)で、週末はライブバーに。最近はジャズのみならず、いろいろな音楽家が出入りして、リラックスした雰囲気になっています。

Dos Monosの欧州ツアーへ同行中に出会ったブラック・ミディのメンバーから、昨年の来日時に“東京で小規模のライブができるような小さなハコで一緒にやらない?”とツアー中に相談され、仲田さんへ相談すると快諾してくれました。結果、関係者と常連さん15人ほどの超シークレットセッションが実現しました」

下北沢〈No Room For Squares〉店内

クラブの空間を生かして、新しい即興演奏が可能に

これまでロックバンドが出演していたライブハウスに、ジャズや現代音楽、ノイズ、そしてアフリカンパーカッション奏者が出演してセッションを重ね、クロスオーバーの中から新しい音楽が生まれているという。2020年に、ダンスミュージック専門のクラブとしてオープンした〈Spread〉でも、現在は即興やジャムセッションが行われている。

「〈No Room〉から徒歩3分の場所にあるんです。本来はクラブのため、天井が高く、低音が鳴る。ドラマーの山本達久さんのライブを観に行った時に、達久さんに店長でありDJのYELLOWUHURUさんに紹介していただいて。一度そこでハコの特徴を生かし、90分間1人で演奏する『独奏』シリーズの公演をやることになりました。

ドラムのシンバルは金属なので、サックスの音がよくはね返り、共鳴する。大小何種類も用意してフロアにセットし、即興演奏したんです。新しいことがやりたいミュージシャンがやりやすい環境なので、実験的な音楽とも出会える場所です」

下北沢〈Spread〉店内

御茶ノ水〜神田ラインに、新しいベニューが続々開店

「〈御茶ノ水 RITTOR BASE〉は、いわゆるハコではなく、多目的スペースですが、左右のメインスピーカーのほか、天井に4台、足元の位置に4台、合計10台のスピーカーが設置されていて、音に包み込まれるような感覚になる。僕は昨年からゲストを招いたデュオシリーズを開催していますが、初回でギタリストの岡田拓郎さんを招いた時、ギターの中で小銭を転がしたり、サックスのキーをカタカタさせるだけの音などをマイクで拾い、立体的にリバーブをかけ、ほかではできない奏法や音の処理ができました。

御茶ノ水〈御茶ノ水 RITTOR BASE〉店内

最高の音響環境のため、かなり挑戦的なことができる場所だと実感しましたね。また、2022年末にオープンしたばかりの小川町〈POLARIS〉も挑戦的なブッキングが多く、実験的なライブを開催しています。betcover!!の柳瀬二郎さんや日高理樹さん、the hatch、ermhoiさん、細井徳太郎さん、灰野敬二さんなどジャンルレスなミュージシャンが刺激的な共演をされていて。これからいいハブになるんじゃないでしょうか。東京の東側もいいハコが増えています」

小川町〈POLARIS〉店内

最近では、意外な場所でも魅力的な公演が開催されている。

「渋谷の〈公園通りクラシックス〉も面白いです。僕も『独奏』を開催しましたが、グランドピアノ2台のペダルを固定して弦を開放し、その反響を利用して演奏しました。正統派のジャズやクラシックの公演も多い場所ですが、そんなことを許してくれる寛容さもある。それから、最近ライブでお世話になっているのが、代々木上原の〈hako gallery〉。2階はカフェやギャラリーで、ライブも行われます。昨年、石橋英子さんと僕のデュオを開催しました。落ち着いた空間で演奏を聴くことができるので、格別だと思います」

刺激的な音楽が生まれる場所を探す場合、どんな方法があるのか。

「ライブの現場やSNSのリアクションでも、好奇心が旺盛で、聴いたことのない、新しい音楽を求めている人が増えていると感じています。下北沢は、ハコが多く、2分も歩けばライブハウスに当たる。街自体もコンパクトなのでハシゴすれば、必ず新鮮な音楽やセッションに出会えるはず。

まだライブ会場へ行ったことのない人は、好きな音楽家の出演しているイベントのSNSをチェックし、ほかの出演者も見てみる。そうすれば必ず気になる音楽家と出会えると思います。また、コロナ禍中にオープンした場所は、配信も行っているので、そこから入るのもいいんじゃないかと思います」

ゆっくりジャズを聴きたい日には

演目や場所を替えながら演奏を続ける松丸さん。ゆっくりジャズを聴きたい時だってある。そんな時に行きたい店も教えてくれた。

「4年前、石橋英子さんが〈Lady Jane〉で演奏していた時に遊びに行きました。正統派なジャズだけではなく面白い演奏も聴けます」

それから成城の〈Cafe Beulmans〉と東池袋の〈KAKULULU〉。どちらもカフェなんですが不定期でライブを開催している。そういう場所こそ、店主が本当にやってほしいミュージシャンを呼んでいるので、落ち着いた雰囲気ながら刺激的な出会いがあります。SNSをフォローしてチェックしていると不定期だからこそ、心に刺さる音楽に出会えた時の喜びは大きいと思います」