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東京で、天然温泉と日本食文化の粋と贅を堪能する。立川〈Auberge TOKITO〉

自ら畑に立ち、食材を収穫するシェフのレストランがあったり、食卓に並ぶワインやビールを醸す醸造施設があったり、ワインや酒とのペアリングや、カクテルの提案をしてくれたり……。温泉宿に、おいしい楽しみ増えてます。

初出:BRUTUS No.998「おいしい温泉。」(2023年12月1日発売)

photo: Kazuharu Igarashi / text: Michiko P. Watanabe, Koji Okano / edit: Rie Nishikawa

和食と温泉から日本文化にアプローチ

深い森の奥でも、離れ小島のビーチでもない。すぐそばをガタゴト電車が走る東京・立川の外れだ。にもかかわらず、立派な門をくぐって中に入れば、まるで結界されたような静寂が待っている。

案内されるがままに奥へと進むうち、次第に非日常の世界へと没入していく。ここは、地下1300mから汲み上げる温泉を擁する4室の宿房、外来客もウェルカムの食房(レストラン)、斬新なスタイルの茶請箱(アフタヌーンティー)が人気の茶房、からなる〈オーベルジュ ときと〉だ。

東京〈Auberge TOKITO〉リビング
4室とも106m2。シンプルで都会的なリビング。

ユニークなのは、到着時から出発時までの一連のもてなしを、料理人チームがプロデュースすること。率いるのは、国内外で修業を積み、ロンドンの懐石料理店〈UMU〉をミシュラン2ツ星に導いた石井義典シェフ。チームには、国内外で腕を振るってきた熟練の精鋭が集結。一度、日本を離れたからこそ客観視できる日本の食文化の奥深さ、食材や調味料の豊かさを再発見し、日々、アップデートしている。

東京〈Auberge TOKITO〉石井シェフ
総指揮を執る石井シェフ。

例えば和のソース「旨塩(うじお)」。煎り酒や醤油ではなく、羅臼(らうす)昆布と塩で高濃度の昆布だしをとり、刺し身に添えたり。例えば、かつては珍重されたが、今は廃棄される憂き目のカジカにスポットを当て、カツオ節のように仕立てたり。といった具合だ。

美食に酔い、宿房で四季を映す庭を眺めながら露天風呂に寝そべっていると、心身共に解き放たれる。