公共の課題へ挑むための教科書
世界の広告の歴史に残るキャンペーンで、ふたつの「Think」を謳うものがある。フォルクスワーゲンの「Think small」とアップルの「Think different」だ。そこで杉山恒太郎は2025年にこう謳う。「Think Public」と。つまり「公共を考えよう」と。
杉山恒太郎は広告業界の生きるレジェンドだ。電通のエグゼクティブクリエイティブディレクター、取締役常務執行役員を経て、ライトパブリシティの代表取締役社長に就任。現在もクリエイティブの第一線で活躍し、数々の著作も世に送る。
その杉山の新刊『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』(宣伝会議)は、世界の公共の課題解決のための広告——それを杉山は「公告」と呼ぶ——の豊富な実例を取り上げ、その先のヴィジョンを示す。
杉山は本書の趣旨をこう記す。「どんなことでも大きいことが素晴らしい、と大半の人が考えていた時代のアメリカに、小さいことのメリットをアピールして価値観の転換を促したフォルクスワーゲンの『Think small』(1960年)、唯一無二の個性を持つことの意味を問いかけ、多様性の社会を先取りしたアップルの『Think different』(1997年)——これらの名キャンペーンに倣うなら、広告はすでに『Think Public』の時代を迎えている。いわば“第3のThink”へと進化を遂げつつある」
それら「Think Public」な事例を豊富な図版と共に紹介しており、公告の現在進行形の教科書とでも呼べる仕上がりだ。
ちなみに「public」の語源はラテン語の「populus=人々」から。またパブリシティの語源もラテン語の「publicus=国民の」で、これも「populus」からの派生。さらに筆者は編集者であり自主独立のパブリッシャーでもあるのだが、「publish」の語源も「populus」につながる。いわば「Think public」とは、広告やメディアに携わる者への存在意義の再定義を促す言葉でもある。
本書は元『広告批評』編集長の河尻亨一が「編集協力」としてクレジットされており、広告業界のレジェンドと広告のジャーナリストが協働したグローバル視点の「広告“業界”批評」になっている。