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杉山恒太郎×奥山由之の広告談義。クリエイティブはどこに向かっていく? 〜前編〜

世界を変えた広告50本を独自の視点で紹介する著作『アイデアの発見』を物したクリエイティブディレクター、杉山恒太郎。話題をさらったポカリスエットの広告写真で構成された写真集『POCARI SWEAT』を上梓した若き俊才、奥山由之。クリエイティブの現場を知る2人が、広告表現のあるべき姿を語り合った。後編はこちら


初出:BRUTUS No.868「101 THINGS TO DO IN SEOUL」(2018年4月16日発売)

photo: Kazuharu Igarashi / text: Kaz Yuzawa

果たして広告のクリエイティブはどこに向かっていくのか

BRUTUS

杉山さんが『アイデアの発見』で選んだ広告から、何本かご紹介ください。

杉山恒太郎

ほとんどYouTubeで観られるから観ながら紹介しましょう。まず「Where's the beef?」(1984)。このウェンディーズのCMはアメリカのもの。それまでのアメリカのCMは、底抜けに明るい家庭を舞台に健全なファミリーが登場するという、憧れだけれど絵空事な設定が定番だったわけ。

でもこのCMは、日常生活に不満を抱えた不機嫌そうで辛辣なおばあさん3人組が、バンズだけがやたら大きい他社のハンバーガーを見て「Where's the beef?(お肉はどこ?)」って言いつのる面白CM。

「Where's the beef?」というコピーはその後、物事の本質を問う場面などで慣用句として使われるほど人々の日常に浸透していった。

ウェンディーズのCM
ウェンディーズ「Where's the beef?」広告シリーズより。大きすぎるバンズと小さな肉に、シニカルな突っ込みを入れる三婆がおかしい。1984年アメリカ。

奥山由之

それはすごい。そこまで浸透すれば、広告としては大成功ですよね。

杉山

そう。このCMのディレクターはジョー・セデルマイヤー、一世を風靡した面白CMの鬼才で、とにかくキャスティングが絶妙です。いかにもダウンタウンあたりにいそうなお年寄りを起用して、それが当時の若者の感覚にフィットした。

奥山

それは、若い世代を敢えて狙ったキャスティングなんですか?

杉山

いや多分、彼は絵空事のCMに辟易していて、リアルな日常感覚を持ち込もうとしたんだと思う。それが、アメリカン・ニューシネマのリアリティにハマっていた若者にウケたんじゃないかな。

つまり、セデルマイヤーは当時のアメリカの社会状況や時代感覚をしっかり捉えていたということだね。

奥山

CMでは社会認識が大切ですよね。

杉山

次は、奥山さん選んでください。

奥山

僕はプレイステーションの「Double Life」(1999)が印象的でした。強烈なドキュメンタリータッチで。

プレイステーション「Double Life」。ヨーロッパでのみ放映されたプレイステーション発売時のCM。オタクの危うさとヒリヒリとした空気感が絶妙。1999年。

杉山

アレ、いいでしょう?僕がカンヌライオンズの審査員をしていて、一番ショックを受けたCM。しばらく立ち直れないくらいの。世界で評価されるには、広告といえどもあそこまで人の暗部に触れなきゃだめなのか、とね。

奥山

たしかにこれは、カルト的な要素が強いですよね。ハーモニー・コリンの『ガンモ』に通じる危うさも感じます。

杉山

オタクと呼ばれた人々を、初めて公共の場で肯定したわけだから。それもCMで。そして最後に出るコピーが「DO NOT UNDERESTIMATE THE POWER OF PLAYSTATION」。プレイステーションを侮るな、だからね。

奥山

このCMは、ヨーロッパだから作れたわけじゃないでしょう。世界的に見ても異様ですよね。この企画をどうやって通したのか、知りたくなります。

杉山

だから今でも、カルトCMの頂点に位置しているんですよ。

奥山

現場の情熱と広告主の信頼の、極北のマリアージュですね。