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根本宗子のあまい東京記:日本橋散歩の醍醐味は、ふわふわの大好物

根本宗子が思い出のスイーツを綴る連載。前回の「癒やしの幡ヶ谷で出会う、箱びっしりの黒胡麻」を読む。

illustration: Michiko Furutani / edit: Emi Fukushima

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第11回〈うさぎや〉の「どらやき」

〈うさぎや〉の「どらやき」 イラスト

和菓子の名店〈うさぎや〉が誇る看板商品。しっとりふわふわの生地と、そこにぎっしりと詰まったコク深く程よく上品な甘さのあんこが特徴。1個230円(中央通り店 TEL:03-3271-9880)。

幸せを口に入れたような味と食感

「うさぎやさんのどらやき」。この響きを聞くと私は胸がふわふわした柔らかい気持ちになる。それはまるで〈うさぎや〉のどらやきの皮のように。このどらやきは母の大好物で、見事に私も娘としてその好物を引き継いだ。〈うさぎや〉がある日本橋という街は名前からしていい。わたしは新橋から日本橋までを散歩することが趣味なくらい、あのエリアが好きだ。この連載でも顕著にそれが表れていることだと思う。

昨年の12月、運良く仕事で日本橋エリアに通うことが多かったので、改めて一人で〈うさぎや〉に行き、どらやきを買って帰宅するということを何度か繰り返した。仕事でくたくたになった日に手で半分に千切って口に入れた時の幸せたるやなかった。どうしてこんなにもふわふわしているのだろう。出来たてを食べているような感覚になる。温かくないのに温かいように感じるのだ。とんでもなく不思議。

〈うさぎや〉のどらやきはまるで幸せを口に入れたような味と食感だ。現在私は舞台『宝飾時計』の本番真っ最中なのだが、先日差し入れに〈うさぎや〉のどらやきを発見した。箱の中にぎっしりと並んでいるどらやきたちは皆こちらを向いて優しく微笑んでいた。

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