Read

Read

読む

料理と酒のプロが忖度なしに読み解く、スヌープ・ドッグの料理本

あのスヌープ・ドッグが、地元であるLBC(カリフォルニア州ロングビーチ)のフッドメニューに、世界中で経験した美味を加えてリメイク&リミックスしたレシピ本『スヌープ・ドッグのお料理教室』。その日本版発売を記念し、大のスヌープ好きであるシェフとバーテンダーに、レシピの魅力をガチで解説してもらった。

Photo: Jun Nakagawa / Text: Katsumi Watanabe

俺の料理教室に招待するぜ!

高橋悠

スヌープにはギャングスタやマリファナなどのイメージがあるので、この『お料理教室』もふざけた本なんじゃないの?と思われるかもしれないんですが、レシピ自体、かなりしっかりしています。

料理ビギナーや多忙で時間のない人に向けて、懇切丁寧に考えられたものだということが伝わってくるレシピです。

シェフ・高橋悠、バーテンダー・松本圭祐
松本さん(左)の手元には高橋さん(右)私物の原書。22年2月にスヌープが出演したNFLスーパーボウルのハーフタイムショーの話も盛り上がる。

松本圭祐

照り焼き風のチキンがのったライスボウルとか、意外と手がかかりそうですけど。

高橋

オレンジ・チキン・ウィズ・ホワイトライスですね。うちでも実際に作ってみましたが、かなりおいしい。スリラチャソース(国内でも入手可)とオレンジジュース、醤油を混ぜる、全体的に市販の調味料を使った料理なんですよ。

オレンジ・チキン・ウィズ・ホワイトライス
オレンジ・チキン・ウィズ・ホワイトライス。レシピでは長粉米が使われているが、照り焼き風味だから日本米でも全然OK!

松本

なるほど。エミネムがデトロイトでスパゲティ屋さんを始めましたが、『お料理教室』にも似たようなミートソースがありますね。

高橋

アメリカには麺そのものが入ったスパゲティの缶詰があって。信じられないくらいマズいんだけど、スヌープもよく食べていたようです。『お料理教室』では、そんなスパゲティにリスペクトを捧げたレシピが出てきます。

松本

まさに、思い出の味ですね。

高橋

それから、フードスタンプで配給されるプロセスチーズも懐かしんでいたり。本人がレジェンドなんでアッパーなイメージもありますけど、アメリカのロウアークラスの食文化も見えてくる。

松本

日本版には、国内で手に入らない材料やスパイスの代替品リストが追加されてますよね。

高橋

英語の原書で、日本ではなかなか売っていない万能小麦粉を使う場合、日本版では中力粉(うどん粉)を代替品にしていて、細かい心遣いが見えます。

松本

翻訳者と編集者の熱意を感じます。

高橋

後半はカクテルの紹介になってますね。

松本

スヌープらしい、ちょっとイカつい名前のつけられたものもありますが(笑)。基本的には最近のバーカルチャーで人気のクラシックカクテル。うまくツイスト(現代的にアレンジ)を施して、かなり真面目にカクテルを提案してますね。

高橋

「Gin & Juice」(1993年)という、曲にするほどタンカレーのジンが好きですけど。

松本

もちろん『お料理教室』には、リミックス・ジン&ジュースというレシピがあります。

リミックス・ジン ジュース
リミックス・ジン&ジュース。日本ではAmazonでCirocを入手することも可能。

高橋

ジンとパイナップルジュースに、Cirocのウォッカを入れるよう指定されていて。なんと、このメーカーはパフ・ダディが共同オーナーを務める会社。

1990年代にスヌープが所属していたデスロウ・レコードと、パフィ率いるバッド・ボーイ・レコードは敵対していたんですよ。要するに、過去に抗争していた相手のアップルウォッカもミックスして、諍い事も飲み干すという。

松本

すごく粋ですね。思わず惚れ直しました。

ヒップホップMC スヌープ・ドッグ
まずは気になるスヌープのキッチン。調味料棚には、ケチャップやマスタードと並び、お馴染みの醤油の瓶も見える。