Read

Read

読む

小さな“おいしさ”を誰かと囲む時間を大切に。くどうれいんが著書『桃を煮るひと』について語る

小説、短歌、絵本、エッセイなど、さまざまな表現方法で文章作品を発表する作家のくどうれいんさん。この6月に、食にまつわるエッセイ集としては2作目となる『桃を煮るひと』を上梓した。食とそれを取り巻く生活のささやかな瞬間を、時に軽妙に、時にじんわり書き綴ったエッセイが41編収録されている。

text: Emi Fukushima

おいしさと、ささやかな会話と、生活を

自身2作目となる食エッセイ集のタイトルについてくどうさんはこう話す。

「前作『わたしを空腹にしないほうがいい』の装丁から今作もなんとなくピンク色のイメージがあり、書いていた作品の中でぴったりなものを選びました。それでも、もっとパワフルなタイトルがいいのでは?と悩んだのですが、装丁の脇田あすかさんが、打ち合わせ用の資料に“桃煮”と書いたピンクの付箋を貼っていて。略称が“桃煮”なるの、最高じゃんとタイトルの決定に至りました」

“わたしは食事を「おいしさをだれかとぶつけあうための行為」だと思っているのかもしれない”との文中の一節の通り、くどうさんにとって大切なのは、突き抜けた美食との対面ではなく、小さな“おいしさ”を誰かと囲む時間。前作から今作にかけては、人と相対することが思うように叶わないコロナ禍に見舞われたが、そこで再発見したこともある。

「“落ち着いたらご飯しよう”の言葉がたくさん交わされた時期が長かったですが、私はその都度“絶対だぞ、絶対だからな”と思っていて、今少しずつそれを実現させています。会ってご飯を食べることがこんなにも幸せなことだったかとしみじみ噛み締めています。大きくひとくち食べて笑い合ったりしながら、やはり食事は対面してこそと思います」

身近な暮らしの傍らにある食に光を当て続けるくどうさん。では、これから夏にかけて楽しみにしているものは?

「瓶ウニ!私の暮らす岩手では、ミョウバンを使わないウニの剥き身が牛乳瓶に入れて売られています。これがうっとりするほどおいしくて。これからの季節は、スーパーに行くたび瓶ウニを買いたい誘惑と戦うことになります」