目先の有用さよりも、発想を変えていくための本質的な学びを

(1)『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』アダム・グラント/著 楠木建/監訳
知識をリセットし、考え直すことはなぜ重要なのか。思い込みを手放し、発想を変えるための「知的柔軟性」を、心理学の研究成果に基づいて解説する。三笠書房/2,200円。
(2)『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』ルトガー・ブレグマン/著 野中香方子/訳
近現代の社会思想のベースとなる“性悪説”について、それを裏づけてきたスタンフォード監獄実験、ミルグラムの電気ショック実験などの真偽を分析。上下巻。文藝春秋/各1,980円。
(3)『新書版 性差(ジェンダー)の日本史』国立歴史民俗博物館/監修 「性差の日本史」展示プロジェクト/編
2020年秋に国立歴史民俗博物館で開催された企画展示『性差(ジェンダー)の日本史』の内容をダイジェスト。1,800年に及ぶジェンダーの歴史を辿っていく。インターナショナル新書/924円。
ここ最近のキャリアに関する意識調査で目につくのは、将来に漠然とした不安を抱えている人の多さ。焦燥感から、たまたま目の前にある専門性を磨いたり、資格を得ようとしたりと、短期的に有用な学びを追い求める人も少なくないのではないでしょうか。
でも長い目で見て大人たちに必要なのは、より内発的な動機にドライブされて、人生を豊かにするための本質的な学び。自分はなぜ、何を学びたいのか。一歩下がって見つめ直すことから、本当の学びは始まるのではと思います。
これからの時代に必要な知性のあり方を示すのが『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』(1)。組織心理学の第一人者である著者いわく、従来の知性とは「どれだけ考え、学んできたか」だったのに対し、これからはむしろ、「学んできたことをいかに手放し、新たな発想ができるか」が鍵を握るのだそう。
今の自分とかけ離れた分野を学ぶことが、視野を広げたり創造性を刺激したりするのだ、と説きます。実際に私も、自分の生活とは全くリンクしない古典の詩を読むことがありますが、知らないことに触れると、自ずと学ぶ感覚が呼び覚まされるんですよね。遠いものから手を出してみるのも有効だと感じます。
学び直しの道のりを追体験できるのが『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』(2)。本書は、性悪説が基本にある現代の社会構造に異を唱え、ほかの学問と組み合わせながら、心理学上、あるいは考古学上の定説を次々と論破。人間観をアップデートする重要性を訴えます。
推理小説を思わす勢いのある筆致で示されたその論考のプロセスを追うと、先入観を捨てて新しい発想を取り入れるとはこういうことかと腑に落ちる。そしてもちろん、社会で生きるうえで基礎になる人間理解に対する学びも深められる一冊だと思います。
総論的な話が続きましたが、最後は具体的なテーマから『新書版 性差(ジェンダー)の日本史』(3)を。生まれた時から生物的な性別によって役割分担を埋め込まれてきたブルータス読者の世代にとっては、今特に学び直したいのがジェンダー。中でも終始客観的な視点に立っている本書からは、男/女について考え直すきっかけをもらえると思います。