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カレー専門店じゃないけれど。あの店の名物〆カレー Vol.1 〈BOLT〉〈老酒舗〉etc.

カレーの専門店ではないけれど、旨いと評判のカレーがある店。最高の食材、極上のだし、専門分野の調味料を使い、研ぎ澄まされた技術で仕上げられた唯一無二の味は、看板メニューとして供されることも。食べずして帰れぬ味に、カレーの奥深さを感じずにはいられないのだ。

photo: Yoichiro Kikuchi, Shin-ichi Yokoyama, Hiromi Kurokawa / text: Haruka Koishihara, Koji Okano, Ayako Takahashi / edit: Haruka Koishihara

BOLT(神楽坂)

魚のエキスとハーブ、リキュールが
融合。フレンチ酒場の〆カレー

器の中には具のないルーとご飯のみ。一見控えめなルックスだが、この中には魚介の旨味があふれんばかりに溶け込んでいる。

店主の仲田高広さんは、力強いフランス料理で知られる〈マルディ グラ〉〈レスプリミタニ〉、そして新鮮な鮮魚料理で人気の居酒屋〈まるしげ夢葉家〉でも経験を持ち、料理の引き出しの多さで評判。和仏が融合した一品料理と多様なお酒をあれこれ楽しんだ後の締めくくりとして圧倒的な支持率を誇るのが、この「スープドポワソンカレー」だ。

師匠である三谷青吾シェフのスペシャリテ「スープ・ド・ポワソン」のレシピに忠実に、季節の鮮魚をタマネギ、ウイキョウ、ニンニクとともに5〜6時間煮て骨ごと軟らかくしてからミキサーで回したものに、S&Bのカレーミックスで香りとスパイシーさ、濃度をつけて仕上げる。
白いご飯ではなくバターライスを合わせてあるあたりも心憎く、この一品のためにワインをもう一杯頼みたくなる。

老酒舗(御徒町)

麻辣仕立てのルーをサワーの肴に。
〆にはチキンカレーの楽しみも

現地・中国さながら、「発酵白菜と豚炒め」や「味噌豆腐」などの酒肴とともに紹興酒や白酒が楽しめる店。中華屋台料理として定番の花椒と唐辛子ベースの麻辣ダレで煮る串も人気だ。定食のような佇まいの「麻辣香咖飯」は、この麻辣とカレーの相性の良さに着想を得た一品。

ルーは、火鍋スープのもと「底料」が味の決め手で、見た目はサラサラだが強烈な辛味と旨味があり、見事に酒のアテになる。一方、チキンはオーナー・梁宝璋さんの故郷・中国東北部の調理法そのままに、特製のドラム缶窯で炭火焼きに。こちらもシナモンやクミンの香りとともに花椒と八角も効いて、しっかり中華に着地している。

ルーに浸すとますますつまみに最適で、杯を重ねるのに夢中になること必至だが、最後はご飯&ルーとチキンカレーにして〆たい。

松濤 爛缶(神泉)

〆のご飯のつもりが、さらに一杯。
甘味と酸味が酒を呼ぶビンダルー

左党から絶大な支持を得る渋谷の居酒屋〈高太郎〉出身で、2020年5月に独立開業した店主・柿木信浩さん。こちら〈松濤 爛缶〉には品書きがなく、料理はおまかせのみ。〆の定番がポークビンダルーだ。

「赤ワインビネガーを使うことで生まれる、ほっと落ち着く甘酸っぱさ。飲んだ後には、これがいいんです。またスパイスの風味に刺激され、“もう一杯!”の方もいます」。そんな時は日本酒なら芳醇な香りの古酒、ナチュラルワインならライトボディで旨味の濃いガメイを薦める柿木さん。唐辛子控えめのビンダルーが持つ甘味と酸味にも、ふわりと寄り添う飲み口なのだ。

天重本店(半蔵門)

天つゆではなくルーで。
海鮮かき揚にカレーの妙技

半世紀以上続くオフィス街の天ぷら専門店で根強いファンをつかんでいる「辛口カレーかき揚丼」。意外性に驚くも、カレーにフライはテッパンゆえ、天ぷらが合わないわけがない。「専門店にないカレーを店の名物に」。初代・真柴弘さんは、2000年頃から組み合わせの妙に気づいていた。

東京〈天重本店〉かき揚げのタネ
「ゴボウより食感が軟らかいのに香ばしいから」。あえてシメジを使うなど、かき揚のタネにも工夫が光る。

カレー側の作法に則って、スプーンで食べるのもユニークだ。ルーはカツオだしでのばしたシャバシャバ系で、スパイシーな天つゆのごとし。一味の辛さにそそられてかき込めば、海鮮かき揚の弾ける食感が口に楽しい。「日本人に生まれてよかった」。丼の底が見える頃には、しみじみ感じ入るはずだ。

東京〈天重本店〉辛口カレーかき揚丼
辛口カレーかき揚丼800円。平日ランチのみの提供。カリカリに炒めた挽き肉をルーに忍ばせて、食べ応えをプラス。ホタテ、シラウオ入りの海鮮かき揚は、ルーが染みてもサクサクとした食感が続く。