渋谷の裏路地で
古今東西の文化を堪能
百軒店=“ひゃっけんだな”と読みます。渋谷駅から道玄坂を上がった中腹にある大きなアーケードが街の入口です。ここ最近の駅前開発でさらに渋谷へ遊びに来る人が増えましたが、まだ百軒店を知らない人のために、まずは歴史のお話から。
実は、かつては渋谷の中心街だった地域なんです。室町時代から、この街を見守ってきたのが〈千代田稲荷神社〉。江戸城の守護神として勧請し、今は百軒店界隈のオーナーが商売繁盛を祈願するシンボルになっています。大正時代は花街として栄え、その名残が今もあるためネオン街のイメージが強いですが、昭和初期、映画の舞台によく使われ〈名曲喫茶ライオン〉や、ジャズ好きのマスターが始めた〈たるや〉が出店し、音楽好きが集う隠れ家的なエリアへと変貌。
最も街が賑わっていた1970年代頃は、ビリヤード場や射的場が立ち並び、メジャーバンドへの登竜門的ロックバーの〈B.Y.G〉がオープンして若者の歓楽街となっていたそうです。その頃から今も、街の食堂として馴染まれているのが〈とりかつCHICKEN〉。
2009年以降、焼肉店〈どうげん〉の出店をきっかけに、グルメの街へと徐々に姿を変え、元ホテルのコックだった店主の岩手料理が味わえる〈イワテバル。〉や、福島の地酒が揃う立ち飲み店〈立呑み なぎ〉など、今では古今東西の食の充実度も渋谷随一。個人的に、若い世代におすすめしたいのが、裏原世代の先輩方が集うレコードバー〈WOKINI〉。渋谷区出身で兄貴肌のオーナーが店を切り盛りしています。
ここ数年は、さらに多種多様な店のオープンラッシュで、なかでも、一杯から世界中のクラフトビールが楽しめる〈Mikkeller TOKYO〉ができたことで、女性たちが楽しそうにナイトクルージングする姿が、この街の新しい風景になりました。時代とともに変化しながらも、これまで積み上げてきた渋谷の歴史が良い感じに混ざり合っているのが、百軒店カルチャーです。
昼間は閑散としている街ですが、2020年7月から百軒店エリアをハシゴ酒できる昼飲みイベントが始まります。私の店、〈バーながさき/うどん酒場萬斎〉も、これに参加する予定です。どの店も、個性溢れる店主揃い。夜はまだ勇気が湧かない人!これを機に、行きつけの店を見つけてください。