第六回「お返し」
その日、近所のグラウンドに集合した14歳の少年3人は、三角形に広がってキャッチボールをしていた。しばらくはただボールを投げ合っていたが、徐々にそれぞれ距離をとって、弧を描くような遠投に変わっていった。
Yという少年が、友達を驚かせるために、力強く空に向かってボールを投げたときだった。ボールが軌道の途中でなにかにぶつかり、グローブを構える友達とYとのあいだにぽとりと落ちた。3人は目を見合わせて落下地点に集まった。空を見上げてもなにもない。
Yは再びボールをそこ目がけて投げた。するとやはり目には見えない物体に当たる。何度も繰り返すうちに、それが人よりもやや大きな、厚みのあるモノだとわかった。3人はこの奇妙な現象に興奮し、時間を忘れてボールをぶつけ続けた。
その日以来、Yに小石が投げつけられるようになった。あたりを見渡しても、誰がどこから狙っているのかわからない。ただ、どこへ行っても町にいる限りなにかが執念深く石をぶつけてくる。Yは親の家業を継ぐことを期待されていたが、高校卒業後すぐ地元を離れ、20代後半の現在まで東京で暮らしている。「気味が悪くて逃げるしかなかった」とYは言う。