銘酒のための器を探す
ショートトリップへ!
佐賀県には有田をはじめ、伊万里、唐津、武雄と、日本を代表する焼き物の産地が数多くある。〈御宿 富久千代〉では宿泊者しか購入できない限定酒も買い込んだし、銘酒に合う、そして何より、作家名や流行に左右されず、自分が本当に「いい!」と思った器を選ぶ絶好の機会だ。
有田は17世紀に日本で初めて陶磁器の製造が始まった地。磁器の上質な原料となる陶石が有田の泉山で発見され、国内での生産が不可能と考えられていた磁器の焼成が始まり、のちに陶器作りも行われるようになった。
現在も大小多くの窯があるが、まっさらな目でお気に入りを探したいなら〈幸楽窯〉がいい。広いガレージに所狭しと並んだデッドストックの有田焼。「トレジャーハンティング」と称したプランなら、5,500円でカゴに詰め放題。どの器にどんな価値があるのかなんて関係ない。直感の赴くままに器と向かい合う行為は新鮮で、90分という制限時間があっという間に過ぎた。
次は有田焼に新風を吹き込む作家・百田暁生さんの工房兼ギャラリーショップへ。有田焼の魅力である真っ白な地に淡い青磁釉がとろりとかかった酒器は薄く、軽く、繊細。これは昨晩飲んだ微発泡の「鍋島」のにごりに合いそうだ。両者とも見た目も口当たりも軽快で爽やか。ぴったりじゃないか。酒と酒器を自分の感性で組み合わせるのがこんなに楽しいとは!器の自由な世界が開いた音が、たしかに聞こえた。
有田
●買い物〈幸楽窯〉
●買い物〈in blue 暁〉
●飲食店〈くまえもん〉
伊万里
伊万里市は暮らしの中に焼き物が根づいた町だ。コーヒーショップでは古伊万里の小皿にクッキーが、有田焼の高台皿にプリンが。コーヒーは江戸時代に徳川将軍家へ献上されていた鍋島焼のカップに入れられて出てきたものだから驚いた。鍋島様式の一つである「色鍋島」の絵付の美しさに見惚れて、かつて佐賀藩(鍋島家)の御用窯が置かれ、その伝統を今に受け継ぐ窯が残る大川内山へも足を延ばした。
「鍋島焼は美術館で重宝される一方、生活の道具として使われることは少なくて。それでは文化が途絶えてしまいますし、作り手の生活もままならない」とは、350年近い歴史がある産地で窯を構える〈鍋島 虎仙窯〉3代目の川副隆彦さん。伝統を守りつつも今の暮らしに取り入れやすい鍋島焼のあり方を模索している。
鹿島に程近い武雄市で作られるのが武雄焼。有田や唐津などの様々な技法が混ざる。〈東馬窯〉の馬場宏彰さんは、数少ない武雄古唐津焼の技法の継承者。武雄の山の土を使い、その地で育ったレモングラスを釉薬に使用した器には、清々しい青磁器とはまた違う温かみがあった。
歴史も作り方も作る人も実に様々。その多様性は「〇〇焼」というラベルだけでは定義できないし、する必要もない。酒も器も先入観を捨てた先に新しい発見や驚きがあるのだから。この旅で、ひそかに鞄に忍ばせてきた酒と器の教科書を見ることは結局一度もなかった。そしてこの先もたぶん、開くことはない。
●飲食店〈LIB COFFEE IMARI〉
●買い物〈鍋島 虎仙窯〉
武雄
●買い物〈東馬窯〉
●買い物〈閑古錐窯〉
有田・伊万里・武雄
行っておきたいスポット
佐賀の旅、2日目
モデルプラン
08:00 宿で温泉湯豆腐の朝食。
09:00 チェックアウト後、有田へ。
10:00 〈幸楽窯〉でトレジャーハンティング。
12:00 〈くまえもん〉でピザランチ。
13:00 〈in blue 暁〉で器を物色後、伊万里へ。
14:30 〈LIB COFFEE IMARI〉で一服。
15:30 〈虎仙窯〉で鍋島焼について学ぶ。
16:30 〈東馬窯〉か〈閑古錐窯〉で器を買う。
18:30 長崎空港着。