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新橋の町中華〈ビーフン東〉この場所で変わらずあり続ける、をモットーに

今日も最高の一皿を提供している町の中華を、心から尊敬したい。

Photo: Tetsuya Ito / Text: Naoko Yoshida

新橋駅前ビルの1号館。エスカレーターで2階に上がり、そのままくるりと左後方へ。突き当たりをまた左に曲がると角に〈ビーフン東〉がある。入口に並んだ椅子に座ってオープンを待ち構えるサラリーマンとおぼしき男性たちが、新橋の変わらぬ昼の風景を作り出している

どの顔も、「あの味を求めて」とばかりにつやつや輝いているのがいい。看板が営業中に変わるや否や、どこからともなくお客が集まり、「ちまきは?ハーフ?」「今日は汁なし?汁あり?」なんて会話を交わしながら、店内に流れるようにして入っていった。気づけばあっという間に満席だ。

新橋〈ビーフン東〉店の入口
11時30分の開店からランチ終了まで満席状態が続くが、回転の良さゆえ並んでもすぐに入店できる。30席あるフロアを見守りながら店のリズムを生み出しているオーナーの東俊治さん。白衣が似合う。

夜は台湾料理をベースにしたメニューを出す〈ビーフン東〉だが、ランチのメニューはシンプルかつ特徴的。ビーフンを3種類(並・五目・蟹玉)から選び、焼き(汁なし)、スープ(汁あり)を決める。さらにサイズを3種類(一人前・小盛・大盛)から選択する。あとは中華ちまきの“バーツァン”を頼むかどうかだけ。

こんなに絞り込まれたメニューにもかかわらず、バーツァン食べたさにちょっとしたドラマが生まれるのが面白い。ビーフンを小盛にするかバーツァンを仲間と半分ずつ分けるか。とにもかくにもこのちまき、記憶に刻まれる味なのだ。今日はやめとくかと思った瞬間によだれが出る。

食べずに帰れば午後の仕事に支障が生じる。豚バラやラードが生み出す旨味と、ピーナツの甘味が芯まで染みたもち米は、醤油のいい香りをまとって存在感を放ってくる。しかし一番の目的であるビーフンも一人前がっちり食べて満足したいし……。

さて、どうしよう。〈ビーフン東〉のランチにおいてビーフンとバーツァンはどちらも主役。だからこそ何をどう組み合わせて食べるかが悩ましい。

オーナーの東俊治さんはこう話す。「新橋は時代の影響をモロに受ける町です。景気が良かった頃はランチも夜のメニューと同じでしたが、僕が店を回すようになった平成4年に今の形に変えました。これからは自分たちが現実的に払える値段のものを提供していかないといけないって」ビーフンとちまきで1日200食。20年以上も売り続けてきた。

「こんな店は世界中探してもうちぐらいのはず。それは僕の誇りでもあります。3代、4代にわたって来てもらえる、永遠に愛される店でいるためにはお客さんの期待を一度だって裏切れません。エレベーター上がったら変わらずあって良かったと言われるように、知恵を絞って仕事しています。“こっちがへばってどうする!”と自分にハッパかけてね」

東さんはそう言ってタバコに火をつけた。〈ビーフン東〉は最近にしては珍しい喫煙“可”の店(2016年時点)。東さんいわく、「おいしいものを食べたあとの一服は人生のゆとり」。自身も1日30本をノルマにしている愛煙家だ。けれど店内はまるで煤けていない。それどころか厨房の壁からカウンターから客席から、目に留まる場所すべてピカピカに磨き上げられていることに驚かされる。

「見た目は大事ですからね。油を含んだ煙のこびりつきはすごいので毎日すぐに拭き掃除します。洗剤を少し垂らした熱めのお湯にタオルを浸して固く絞ってサッと拭けばキレイになる。大掃除なんていりません」

おいしいものを味わうには店のリズムをキャッチして、同じテンポで楽しむこと。

店を支えるこだわりはこれだけではない。〈ビーフン東〉は相席が基本。中央のテーブル席は縦並び。奥の席は横並び。2人客をこうして相席にすることで先に食べ終わった人が席を立ちやすいようにしている。相席一つとっても工夫があるのだ。

「この店はこうなんだって、お客さんもうちのテンポを感じ取ってくれると、さらに気持ち良く過ごしてもらえると思います。僕らは注文を口頭で厨房に伝えるでしょう。それを受けたコックたちが片っ端から料理を作っていく。紙に書いたりしていたら生まれない独特のリズムの中で仕事してるんです。おいしいものはリズム良く食べて飲むのが一番ですよ。ダラダラしても何もいいことはない。

僕はいつもレジの横でお客さんのことを観察しているんです。席を立つ前から頭の中で会計まで済んでいますよ。目つきが鋭い?(笑)以前、インターネットに、ゴッツイおじさんがレジの横にいて気になった〜なんて書かれたこともあったけど、当たり前やろ!こっちは真剣なんだって笑っちゃいました」

新橋〈ビーフン東〉五目ビーフン焼き
五目ビーフン(焼き)
豚肉、エビ、シイタケ、タケノコ、ウズラの卵などが入った具だくさんのメニュー。麺は昔ながらのケンミン。昼間からこれをつまみに瓶ビールをたしなむベテランのサラリーマンたちも多い。¥850。