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週末の時間が好きになる環境を求めて。どこにいても、庭と緑が感じられる家

別荘地で知られる神奈川県葉山町。「EAT GOOD」をテーマに食と向き合い、〈麹町カフェ〉などを手がける松浦亜季さんは、4年ほど前、東京都心部の集合住宅から、ここ葉山の家に移り住んだ。決め手はグリーン、緑豊かな環境だった。

Photo: Tetsuya Ito / Text: Tami Okano

どこで過ごすよりも好きな時間が、家にある。

1970年代に宅地開発された葉山町の山あいの一角。家は築42年の木造2階建てで、敷地北側の庭は、町が所有する里山へと直接つながっている。すぐそこに聳える、木々に覆われた崖のような斜面。おかげで窓からの眺めは、緑、そしてまた緑。80㎡近い庭ですら、そのオマケみたいに見える。

不動産屋を伴い、夫の清一郎さんと初めてここを訪れたとき、家にはまだ元の持ち主が住んでいた。持ち主への配慮もあって部屋のこまごまとしたところは見ず滞在時間はわずか10分。それでもこの類い稀な「庭と里山」の存在に心を奪われ、思い切って購入を決めた。

家そのものの築年数は気にならなかったという。地元の設計会社が丹精を込めた注文住宅で、造りはしっかりとしていたし、うろこ張りの外壁など竣工当時から変わらない家の造作も気に入った。間取りはそのまま、床板も天井板も張り替えず、そのまま使っている。唯一大きく変えたのはキッチンだ。

フルリフォームをしたキッチン
この家で唯一、フルリフォームをしたキッチン。シンクは特注品で1m以上ある。照明はフランス、ジェルデ社のヴィンテージランプで卓上用のものを壁付けにして使っている。

「狭くて小さなシステムキッチンだったので、とにかく広くしたくてシンクなどを特注し造り直しました。やっぱり“自分のキッチン”は嬉しいですね」と亜季さん。

この家に住み始め、週末の過ごし方はガラリと変わった。平日は店の中にいることが多く「週末くらいは街に出たい」と、かつては外出しがち、自宅で料理をすることもあまりなかったという。

ドイツの古い民芸家具のリビング棚
リビングの棚はドイツの古い民芸家具で、亜季さんが高校生の頃に父親の友人から譲り受けた。家具はどれも長く使っているものが多い。
この家の凝った造りを象徴するアールの壁の玄関
リビングの壁に飾られた絵は、イギリスのアーティスト、アラン・グリーンのドローイング。この家に合う絵を選び、夫婦で贈り合うことも。
ダイニングの食器棚は、日本の古い薬棚
ダイニングの食器棚は、日本の古い薬棚。もともとヴィンテージの家具が好きで、家も「古いこと」にマイナスの印象はなかったという。
凝った造りのアールの壁の玄関
この家の凝った造りを象徴するアールの壁の玄関。設計は神奈川県鎌倉市に拠点を持つ〈技拓〉で、改修やメンテナンスも同社に頼んでいる。

「それが今では、家に人をよく呼ぶようになり、2人でご飯を作ることも。家からずっと出ない週末もあります。デッキに座って木々を眺めたり、里山の緑に囲まれながら庭で過ごす時間は格別。わざわざリゾートになんて行かなくてもいいくらいです。

20代、30代と、がむしゃらに2人で働いてきて、その忙しさは今も変わらないけれど、“どこで過ごすよりも好きな時間”が家にあるというのは、本当に贅沢で、大事なことだなって思います。食を支える生産者たちとの関係や新しいフードカルチャーの在り方、これから自分たちが何をしていきたいかも、大切な、この家での時間から見えてくるような気がしています」

庭へと至るアプローチ。
庭へと至るアプローチ。庭の広さは約80㎡。枕木で囲った菜園も造るなど、週末は庭仕事にも勤しむ。写真右手の鬱蒼とした緑が里山の斜面。うろこ張りの外壁は無塗装。