コンクリートの「頼れるハコ」が、名作家具も自作の小屋も受け止める
1階はビートルズとミッドセンチュリーの家具が似合うヘアサロン。コンクリートの階段で2階住居へ上がると、3m超えの天井を持つラウンジが現れる。靴のまま過ごせるモルタル床の空間には、イームズのヴィンテージ家具や柳宗理のスツールなど名作が勢揃い。デザイン好きなことが一目で伝わってくるけれど、住人の楢原一雄さんはきっぱりとこう話す。
「大切なのはハコ。オンオフのない職住一体空間で、個々のインテリアが主張しすぎると疲れてしまう。好きな家具を楽しみながらも、気負わず気持ちよく働いて暮らすには、ハコそのものの力強さや包容力が必要だと思うんです」
福岡県久留米市にある〈BALL HAIR〉店主の楢原さんが、築43年、ワンフロア約200㎡のビルに出会ったのは12年前。当時は公民館として使われ、2階はボロボロの倉庫状態。水回り設備もなかったが、見てすぐ心を掴(つか)まれた。
「いい具合に齢を重ねたコンクリート壁の表情や、ガッチリ骨太な階段の手すりに惹かれました。僕、ロンドンの〈テート・モダン〉に憧れているんですけど、ああいう発電所や工場を大胆に改装した空間に、ここなら近づけるかも……とワクワクしたのを覚えています」
最初は1階だけを借りて店舗にしていたが、2年後に2階も借りることを決意。家族4人が暮らす居住空間に改装した。さらに、「もっと“自分相応”にしたいと思って、3年前にビルごと購入。屋上に小屋も建てました。元が商用ビルだから、柱の太さも天井の高さも住宅用のそれとはスケールが違うんです。20~30代の頃に夢中で集めたミッドセンチュリーの家具も、奥さんが好きな木のテイストも、ヘアサロンの昭和レトロな什器(じゅうき)も、全部引き受ける懐の深さがある。職住一緒の舞台をつくるハコとしては最適でした」。
1階の店舗、階段、2階ラウンジの間にはあえて仕切りを付けなかった。2階にいると、階下から音楽や人の声が聞こえてきて、そのざわめきがまた心地いい。
「もちろん一人になりたい時もある。そんな時は屋上にこもります。小屋で読書するのもいいし、テントを張ってキャンプしてもいい。一棟リノベならではの贅沢です」