暦本純一×落合陽一 師弟対談 #2 「指言語」から「音声言語」へ

AIの進化は私たちに何をもたらし、社会をどう変革していくのか。その答えを探るべく、日本の情報工学をリードする第一線の研究者で、師弟の間柄でもある暦本純一さんと落合陽一さんが「AI時代の知性」をテーマに語った2人の著書『2035年の人間の条件』。本書から、その一部を特別公開する全4回の短期集中連載。第二回は「AIの普及により変わっていくかもしれない言語の形態」について。

photo: Yoshinori Kubo

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#2 AIがもたらす新しい言葉の形

落合陽一

いまはまだLLM(1)を使うことを不自然に感じる人が多いかもしれないけれど、その感覚もどんどん変わっていくはずなんですよね。

たとえばスマートフォンで何か調べながら人と会話するのも、ちょっと前までは不自然だったけれど、いまはだいぶナチュラルな動作になってきました。グーグルマップを見ながら歩くのも、自然な行為になっています。僕の場合、とっくにLLMとお喋りするのがごくふつうな日常になっていますけど、みんなすぐそうなるでしょう。僕にとってLLMは友ですから(笑)。

ただ、LLMとばかりとお喋りしていたら、ちょっとおかしな感じにもなってきまして。というのも、キーボードで文章が書けなくなってきたんですよ。

暦本純一

ああ、なるほど。口で喋るのと指でキーを打つのとでは、インターフェースがまったく違うからね。

落合

そうなんです。発話ではどんどん言葉が出てくるし、次々と新しいトピックに飛ぶんですけど、キーボードを目の前に置いて何か新しい言葉なりアイデアなりを打ち込もうとすると「あれ?」ってなるんです。指を動かすのがまどろっこしくなるというか、「指言語」が出てこないというか。

19世紀にタイプライターが発明されたときは、専門の速記者じゃなくても、聞いた言葉をその場で文字化できるようになりました。それで作家が口述筆記で小説などを書くようになったんですが、それ以前とは文体も変わったじゃないですか。

チャットGPTを発話で使う過程の中でも、あれと同じ現象が短期的には起こっているような気がします。長期的には、たぶん「GPTネイティブ」の単語の出し方をするようになるでしょう。いずれにしろ、キーボードに規定されているいまの文章とは違った文章を人類がつくるようになる。案外、「めちゃくちゃ丁寧語で話しているけれど中身は何も詰まっていないみたいな素敵な世界」がやってくる予感があります。

暦本純一
暦本純一。

暦本

梅棹忠夫(うめさおただお)の『(12)的生産の技術』(2)という本によると、ローマ字で日本語を書くと文章が変わるらしいですね。たとえば石川啄木(いしかわたくぼく)は、ローマ字日記をつけるようになってから文章がすごく良くなったそうです。

じゃあ漢字や仮名で書くのと何が違うかというと、ローマ字は喋るときの発音に近いんですね。そのせいで文章のリズムが良くなって、文体が引き締まる。ちなみに梅棹忠夫は日本で初めて機械式ひらがなタイプライターを導入した人らしいので、そういう入力方法の違いが文体に与える影響に敏感だったのかもしれない。

僕も少し前から、音声で文章を書いています。最初からキーボードを打つのは面倒くさいので、とりあえず「いま僕が考えているのはこんなこととかあんなこととかだ」と思いのたけを数分間ぐらいかけて吐き出すんですね。それぐらいの時間でも、喋ると原稿用紙何枚分にもなっちゃう。キーボードでそれだけ書こうと思ったら、何時間もかかるでしょ。

落合

とりあえず喋りきってからあとでまとめたほうが早いですよね。

暦本

そう。だけど、前は喋ったものを手で編集していたんだけど、いまは口述したデータを「はい、これを論文のアブストラクトにしてください」とチャットGPTに渡しちゃう。それで出てきたものを自分で直すんです。

落合陽一
落合陽一。

次回連載は、6月13日 21時に更新予定。

暦本純一×落合陽一 師弟対談 #1 これからは「GPT先生に聞け!?」

暦本純一×落合陽一 師弟対談 #3 AIと「ぶーしゃかLOOP」で会話する

暦本純一×落合陽一 師弟対談 #4 AIが通訳すればSNSの炎上は減る?

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