#4 AIが解決する社会問題
暦本純一
チャットGPTは言語そのものの在り方にも影響を与えるでしょう。かつて明治時代に言文一致運動で文語体から口語体にしたときに、二葉亭四迷(ふたばていしめい)や樋口一葉(ひぐちいちよう)などが新しい言語そのものを発明したんですよ。たとえば文末の「です」「ます」は、それまでの日本語では一般的ではなかった。AIとの対話でも、そういう言語の発明が起こるかもしれない。
落合陽一
なるほど。チャットGPT語というか、AI言語というか。
暦本
いまの日本語とは違う文体や語彙や文法を持つ新しいコミュニケーション言語。それで喋ったものを、AIが従来どおりの書き言葉に翻訳してくれる。
落合
知能の局在化が起こると、「クラスターA」のほうはその新しいコミュニケーション言語を使って会話するようになるかもしれないですね。でも「クラスターB」はAIの自動翻訳でしかそれを使えないから、日常言語としてはそれを喋れなくなるだろうな、たぶん。だから、クラスターAの人間とクラスターBの人間がフィジカルに出会うと困るんですよ。
暦本
なるほど。クラスターAとクラスターBが話すときは、AIがあいだに入らないとコミュニケーションが成立しないんだね。
落合
面倒なことになりますよ。まあ、すでにいまの時点でも、僕はXで似たようなことをよく経験していますけど。
暦本
140文字くらいでも、ちゃんと読める人間はじつはすごく少ないといいますよね。そもそも長い文章を文脈に沿って読み取るのは、人類の中でも限られた人しかできない。ただ140文字くらいだと、キーワード・パターン・マッチング(1)で理解した気になっちゃう。でも誤解しているから、相手と同じような意見を持っているのに「そんなはずないだろ!」とネガティブなリプライを送ったりするんですよ。傍から見ていると、「2人とも同じことをいってるのに、なんでケンカしてるの?」と思うことがよくあるでしょ。要は早とちりなんだけれど、そういうコミュニケーションの断絶はありますね。
落合
インタープリター(通訳)がいないと、いくらでも起こりますよね。
暦本
だから、ケンカしているところにAIが入ってくれれば、炎上案件の多くは収まるんじゃないかな。AIが「この2人は同じことをいっています。みなさん仲良くしましょう」なんてあいだを取り持ってくれると、人類の軋轢(あつれき)がちょっと減るかもしれない。
落合
そうなると、フィジカルには同居できなくても、コミュニティは共有できますね。インターネットを含めたコミュニティなら、あいだにAIを介在させることで一緒に暮らせる。同じ部屋にいたら、軋轢ばかりでけっこう大変だろうけど。フィジカルなコミュニケーションもそれで成立するレベルまでユーザーインターフェースの進歩が加速する未来像は、あと15年では僕は描けないな。
ただ、いったんデータになったものを改変して出力することはできるから、「オンラインでは君と会いたいけれど、フィジカルではあまり会いたくない」みたいな関係性はどんどん出てくるかもしれませんね。