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暦本純一×落合陽一 師弟対談 #1 これからは「GPT先生に聞け!?」

AIの進化は私たちに何をもたらし、社会をどう変革していくのか。その答えを探るべく、日本の情報工学をリードする第一線の研究者で、師弟の間柄でもある暦本純一さんと落合陽一さんが「AI時代の知性」をテーマに語った2人の著書『2035年の人間の条件』。本書から、その一部を特別公開する全4回の短期集中連載。初回は「チャットGPTをどう学びに活用するか」について。

photo: Yoshinori Kubo

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#1 AI時代のチャットGPT活用法

暦本純一

グーグル検索で何でも調べられるようになったときは、いちいち質問してくる相手に「ググレカス(1)」などといっていましたよね。それがこれからは「GPT先生に聞け」になるわけです。

チャットGPTを使えば、たとえば読みやすい文章を書くこともできる。それを使おうとしないで、何度も人にダメ出しして書き直させたりするのは、無駄といえば無駄でしょう。あるいは三角関数の基本なんかも、チャットGPTがちゃんと教えてくれるので、わからないことを人に聞く必要はなくなります。

そんな便利なものを使わずに一から百まで人に聞けば、時間は余計にかかりますよね。われわれはすごく賢い「パーソナル家庭教師」を持てる時代になったのだから、それをポジティブに受け止めて、わからないことはすべてAIに聞けばいいんですよ。

そもそも物を知らないのは恥でも何でもないんだけど、相手が人間だと「そんなことも知らないのか」と思われそうで、聞きにくいこともあるじゃないですか。でもAIが相手なら、どんなにくだらないことでも恥ずかしいと思わずに聞けるでしょ。使わないのはもったいない。

暦本純一
暦本純一。

落合陽一

何を知らないと恥ずかしいかも、昔といまでは違いますからね。昔はみんな人の電話番号をたくさん覚えていたけれど、いまは覚えていないのが当たり前。固定電話の時代に自宅の電話番号を覚えていなかったらバカにされたでしょうけど、いまは家族の携帯電話番号を知らなくてもなんとも思われない。

暦本

たしかに、うちの奥さんの番号はわからないな(笑)。

落合

みんなそうだから、覚えていなくても普通ですよね。みんなが知っていることと恥は相関がある。AIが広まると、そういう「知らなくても恥ずかしくないこと」がどんどん増えていく。いまはまだ手で漢字が書けないとちょっと恥ずかしいかもしれないけれど、だんだん「まあ、そういう人もいるよね」という感じになってきています。それがもっとラディカルになって、あらゆることが「知らなくて当然」になる未来はある程度あり得ますね。

暦本

まさにそれが『26世紀青年』(2)の世界だけどね(笑)。でもAIがあれば、IQが低くてもかまわない。たとえば、聞かされた数列をすぐに逆順でいえるかというIQテストなんか、苦手な人は多いでしょう。でもAIに聞けばわかるんだから「なんでそれをおれがやらなくちゃいけないの?」という話になるわけですね。

落合

プログラミングの世界でも、「パイソン(3)書ける?」と聞いて「書けません」と答えられても、いまや「まあ、そうだよね」で済む日が来るかもしれない。

落合陽一
落合陽一。

暦本

書けなくても、AIが助けてくれるから。

落合

だからプログラムを書くのが本当に楽になりましたね。C言語(4)なんかも、最初に書くお題目や、ちょっとした作法を全部覚えないと昔はプログラムが書けなかったんですけど、いまはそういう面倒くさいところを全部AIがやってくれるので。そうやって「知らなくても恥ずかしくないこと」がどんどん増えていくと、些細な部分で人と人を比較することが減っていくだろうとも思っているんですよ。

暦本

そういう意味では、楽しくなりますね。いままでは、ちょっとしたことでいちいち比較されるから、「聞くのは恥ずかしい」とか「こんな質問をしたら相手が怒っちゃうんじゃないか」とか気にしていたわけで。あるいは、こっちが物を知らないとわかるとマウンティングされるとか(笑)。AIが相手だとそういう人間関係上のストレスが一切なくなる。素直に「教えてください」といえばいいんです。

次回連載は、6月6日(木) 21時に更新予定。

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